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My Roots My Favorites 斎藤友佳理 (東京バレエ団芸術監督)

厳しい時代のモスクワで出会った、素晴らしきバレエの恩師たち 自分のプロフィールの冒頭に決まって書かれる「十代の時にソ連への短期留学を繰り返し」という表現が、以前はとてもいやでした。書かれるたびに「ソ連ではなく、ロシアです!」と言っていたのは、いろんな意味で、ソ連にまつわる温かみのある言葉を聞いたことがなかったから。自由がなく、娯楽もなく、家にテレビもない。皆飢えていて、レストランになんて年に一度行けたらいい──。でも、ペレストロイカを経てロシアという国になって20年以上が経った今、あらためて振り返ると、そんな時代でなければ、あの状況でなければ、あの人たちには出会えなくて、あの素晴らしいバレエ教育を受けることもできなかったと、気づかされるのです。 当時のモスクワのボリショイ劇場は、後世まで継承されるべき作品、優れたダンサーを生んだ黄金時代。その中で、教えても何の得にもならない東洋人の私を受け入れて、ボリショイ劇場で練習させてくださったのがマリーナ・セミョーノワ先生です。それはもう大変、大変厳しく、エネルギッシュ! 世界最高峰のバレエ学校にその名が冠される、アグリッピナ・ワガノワの一番弟子で、何でもよくご存じの生き字引のような方でした。セミョーノワ先生が退かれてからはエカテリーナ・マクシーモワ先生に教えていただきましたが、生徒をまるでご自分の子どものように育てる、とても温かい方でした。 お金がなくても、東洋人でも、時間が許す限り指導してくれた先生方との絆は、あの時代だったからこそ築くことができたもの。指導者としてそうあるべきと思います。私も東京バレエ団の芸術監督として、そこだけは絶対にぶれずにいきたい、と考えています。 (聞き手・文:加藤智子)