知れば、知るほど、好きになる「ストリートアート いまとこれから」「テルミン」

美術の小箱

ストリートアート いまとこれから

 1960年代末から70年代初頭のニューヨークで最初の波がおきたエアロゾル・ライティングは、エアロゾル塗料(スプレー)やマーカーで地下鉄の車体をはじめとする公共の壁にかき手の「名前」を記していく営みだった。以降さまざまな変遷を経て、半世紀の歴史があるグローバルな視覚文化となり、名前をかくことに限定されない、路上を舞台にする幅広い表現の総称としてストリートアートと呼ばれるようになった。21世紀になると、世界中の美術館で展覧会が開催され、もっとも有名な芸術家のひとりバンクシーもストリートアートの潮流から登場している。

 しかし日本では、まだ認知が高いとは言えない。とくにライティングを暴走族の落書きや子どものいたずらと同じ稚拙な迷惑行為とする考えが根強くあり、私も各所で講演するとそうした反応を受けることもある。そうした偏った見方の原因のひとつに、可読性の問題がある。「名前」を表現するライティングでは、崩したデザインの文字をかくため、多くの人はそれを読めない。読めないと理解もできず、読み手にとって不可解なもの、ひいては公共の場において目障りなものと感じられるのである。

 一方でインターネットが普及し、ストリートの美術がソーシャルネットワーキングサービスなどの情報空間でも共有される現在、若い人を中心にその人気も少しずつ高まっている。難解な現代美術や古典美術よりわかりやすく、大衆に開かれたポピュラーアートの側面が注目されているのである。同時に、批評やアカデミズムによる評価がともなわない部分もある。ポピュリズムへの傾倒はしばしば専門性の希薄化と一体であり、歴史に残すべきかどうかの判断は、それら複数の力学のあいだで時間の経過とともに下されるだろう。

文:大山エンリコイサム


楽器ミュージアム

テルミン


 世界最古の電子楽器「テルミン」は、今から約100年前に旧ソビエト連邦の科学者レフ・テルミン博士(1896~1993)により発明されました。箱型の本体の右側から垂直に立つアンテナと左側に水平に伸びたU字型のアンテナを付けたこの楽器は、まるで昔の無線機のようです。

 テルミンの演奏中、奏者は楽器に触れません。どのような仕組みかというと、本体には二つの異なる周波数を持つ高周波発振器が入っており、発振器間の周波数のずれから生まれる「唸り」がテルミンの音になります。垂直アンテナは発振器のコンデンサが接続されていて、アンテナにかざした右手とアンテナとの距離を変えると静電容量が変化して発振周波数が変わってさまざまな音高が作られます。もう一方の水平アンテナも同じで、左手をかざして音量を変化させます。その音色はチェロに似た浮遊感のある神秘的な響き。ちなみにこの機構のため一度に一音しか出せません。

 ところで、テルミンが発明されたロシア革命から間もないソ連は「国家電化計画」の真っ只中で、自国の科学技術をアピールするためテルミン博士は欧州各国を訪問し、北米では10年にわたり活動しました。同地では、クララ・ロックモアがテルミン演奏を会得し名演奏を残すとともに、博士に改良を提案してテルミンの発展に貢献しました。その後テルミンは、ハリウッド映画で恐怖や不安などの効果音として用いられ、さらにレッド・ツェッペリンなどのロックの世界でも愛用されるところとなります。

 近年、日本はプロの奏者が世界一多いといわれるほどのテルミン大国となっています。「音楽堂オープンシアター2020」では、テルミン奏者の街角マチコさん(ザ・ぷー)が出演されます。お楽しみに。


Photo(上から)

「JE SUIS CHARLIE freedom of speach」とかかれたロンドンのライティング 2015年 撮影:大山エンリコイサム

テルミンを演奏する街角マチコさん

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