成田達輝 (ヴァイオリニスト)

中学時代、朝起きる時の目覚ましは
シュトックハウゼン「ヘリコプター弦楽四重奏曲」でした。

「Toshi伝説」 

一柳慧芸術総監督就任20周年記念

共鳴空間〈レゾナントスペース〉
エクストリームLOVE

神奈川県民ホール 神奈川県立音楽堂


 一柳慧芸術総監督就任20周年記念「Toshi伝説」を彩る豪華な演奏陣の中で、一人だけ、二つの演奏会に登場するのが成田達輝さん。今や引っ張りだこの人気ヴァイオリニストだが、彼の強みは、華麗なテクニックだけではなく、知的かつ周到に練られた音楽へのアプローチにある。これまでのキャリアや現代音楽との出会い、そして「Toshi伝説」に向けての思いなどを伺った。

5時間通学からパリへ

―高校時代は、群馬県の前橋から、桐朋学園まで通ってらしたとか。

 毎日、新幹線を使って片道2時間半かけて通ってました。往復5時間。同級生では一番、家が遠かったはずです。しかも学校で友だちとアンサンブルなどをしているとすぐに夕方になってしまう。仙川駅の横の「ラーメン二郎」を食べてから鈍行の電車で帰ったりすると、家に着くのは夜1時頃で。

―「二郎」のあとに鈍行で・・・確かに、もう新幹線の終電もないですよね。

 で、翌朝も朝6時半の電車に乗るわけですから、まあよくやっていたと思います。

―十分な練習時間を取るのが大変だったのでは?

 ええ、ただ長い通学時間の中で譜面を読んだりしながら、いつも頭の中ではヴァイオリンを鳴らしていた気がします。

―むしろ、そういう自省の時間が、いまの成田さんを作っているのかもしれない。

 そういえば、乗ったバスにたまたまお客さんが誰もいなかったとき、ヴァイオリンを出してさらってしまったこともあります。たしか「タイスの瞑想曲」を弾いて、運転手さんもとても喜んでくれた(笑)。

―大学はパリ音楽院に進学されました。

 高校を卒業したあと、わりあいすぐにパリに渡ったのですけれども、その年のロン=ティボー国際コンクールに入賞したときに、ようやく足掛かりを見つけた気分になりました。そう、この頃は右手のフォームを直すのに必死だった覚えがあります。

―僕も昨年からヴァイオリンを始めてみたら、右手がとても難しくて・・・って、レベルが全然違う話だけれども(笑)。

 弓と上腕二頭筋が平行になるように、というフォームの改造を、シゲティのお孫さんのフローリン・シゲティさんや、ジャン=ジャック・カントロフさんにアドバイスを受けながら、徹底的にやっていたんです。この時ようやく、ずっと引きずってきた課題に解決策を得た気がしました。

―十代での留学生活はいろんな苦労があったのでは?

 部屋の窓がちゃんと閉まらないとか、いろんなトラブルは日々ありましたが、周りにはもっと若くから一人で来ている人もいたし、小澤征爾の「僕の音楽武者修行」などを読むと、はるかに大変な思いをされているので、意外に大丈夫でしたね。

現代音楽と多面的なプログラム

―いわゆる「現代音楽」に触れたきっかけを教えてください。

 中学時代に近所に住んでいた友人がクラシック好きで、彼と一緒に、ショスタコーヴィチの全交響曲やメシアンの「トゥーランガリラ交響曲」を聴いたりしたのが最初でしょうか。その後、知り合いのお医者さんが200枚くらいクラシックのCDをくださったんですが、その中にも現代音楽がいっぱいあった。シャリーノの声楽曲やベリオの「シンフォニア」なんかは印象に残ってます。

―ああ、それは早熟ですね。

 でも逆に、その頃はブルックナーの良さなんて全然わからなかったんですよ。数年前に、ブロムシュテットとゲヴァントハウスによる「7番」を聴いて、ああ、こういう音楽なのかとようやく腑に落ちた。そういえば、中学時代には、シュトックハウゼンの「ヘリコプター弦楽四重奏曲」を、朝起きる時の目覚ましに使ってた(笑)。

―・・・。それは早熟を飛び越しているかも。自分で弾くほうは?

 16歳で受けたパガニーニ国際コンクールの課題曲の一つが、最初の体験でした。毎日一生懸命に楽譜を読んでいたら、楽譜の音型が鏡像型になっていることに気づいて・・・これを自分で発見したという喜びは今でも忘れられないですね。パリ時代にはベリオの「セクエンツァⅧ」にはじまり、ずいぶんたくさんの現代曲を演奏しました。これが現代音楽演奏の第一波。

―第二波は?

 ヴァイオリニストの百留敬雄さんとの出会いがきっかけです。もともと同じジュニア・オーケストラにいた古い付き合いでもあるのですが、ある時に再会したら、ベルギーで現代音楽の演奏家として活躍されていた。それで、彼からずいぶんたくさんの楽譜を見せてもらったんです。4~5年前かな。これで血が騒いだというか、もっと知りたいという欲求がどんどん湧いてきた。

―昨年のソロ・リサイタル(オペラシティ「B→C」)はファーニホウをメインに据えたプログラムでしたね。

 そう、まさに古典と現代を結びつけたいと思うようになったんです。あのファーニホウも本当に素晴らしい曲で。僕にとっては常に、説得力のあるプログラムというのがなにより大事です。古楽とか現代音楽とか、あるいは日本の作曲家だけを並べるという単純なことではなく、音楽の何百年かの豊かな歴史が、選んだ作品から見えてくるような・・・そんなプログラムを作りたい。まだまだ模索中ですが、あと数年したら、もっと多面的なプログラムを構成することができるはずです。

―そういえばフラックス弦楽四重奏団による「一柳慧 弦楽四重奏全曲演奏会」にもいらしていたと聞きました。

 あの時には、弦楽四重奏の0番から5番までが一つながりで聴けて、一柳先生のマインド・プロセスがどう移り変わってきたかが体感できました。ただ、実をいえば演奏会のあと、どうにも悔しかったのです。なぜこれを日本のカルテットではなく、アメリカのカルテットが演奏しているのかと。

そして「Toshi伝説」


―「Toshi伝説」では、まずは県民ホールで、一柳さんの協奏曲「循環する風景」ですね。

 まだスコア全体を見ている段階ですが、本当に面白い。特に奇抜なことをしているわけではないのですが、音楽のコンテンツがきわめて新しい。あるフレーズからフレーズへと進んでいくプロセス、その進む方向性がいつも新鮮なんです。どういう秘密があるのだろうと思ったりします。

―一方、音楽堂では、一柳さんと「クロイツェル・ソナタ」を共演されると。これは楽しみです。

 こちらもすごく楽しみで、たとえば冒頭の独奏は、禅や借景といった要素をくわえて、ものすごくゆっくり弾いてみようかなどと、今からいろいろと考えています。

―本日はありがとうございました。演奏会を本当に楽しみにしています。


my hall myself

私にとっての神奈川県民ホール・神奈川県立音楽堂

 横浜には15歳のときに全日本学生音楽コンクールの受賞者によるクリスマスコンサートに出演してから、何度も足を運んできました。また、コスモワールドの観覧車など、青春時代の思い出が詰まった場所でもあり、横浜でのコンサートのときはホームグラウンドに帰ってきたような思いがします。県民ホール、音楽堂での演奏は初めてなのでとても楽しみです。


取材・文:沼野雄司

(桐朋学園大学教授、県民ホール・音楽堂 芸術参与)

撮影:新江周平


成田達輝 Narita Tatsuki

1992年生まれ。札幌で3歳よりヴァイオリンを始める。ロン=ティボー国際コンクール(2010)、エリザベート王妃国際音楽コンクール(2012)、仙台国際音楽コンクール(2013)でそれぞれ第2位受賞。これまでに、ペトル・アルトリヒテル、オーギュスタン・デュメイ、ピエタリ・インキネンなど著名指揮者や国内外オーケストラと多数共演している。使用楽器は、アントニオ・ストラディヴァリ黄金期の”Tartini”1711年製。(宗次コレクションより貸与)。


「Toshi伝説」 一柳慧芸術総監督就任20周年記念

「共鳴空間(レゾナントスペース)」 2021年2月13日(土) 15:00 

神奈川県民ホール 〈大ホール〉

出演:鈴木優人(指揮) 成田達輝(ヴァイオリン) 東京フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)

鈴木優人:新作ファンファーレ(委嘱作品・世界初演) 一柳 慧:ビトゥイーン・スペース・アンド・タイム

一柳 慧:ヴァイオリン協奏曲「循環する風景」 一柳 慧:交響曲第8番「リヴェレーション2011」

全席指定 一般4000円

「エクストリームLOVE」 2021年3月20日(土・祝) 神奈川県立音楽堂

Classical 13:00/Traditional 14:45/Experimental 16:30 

全席自由 各単独券2500円 1日パス4000円 *各コンサート、インターミッションコンテンツの出演者、曲目等詳細はHPをご覧ください。

◎両公演共通チケット

一柳シート(24歳以下の学生)0円 ※一柳慧が学生の皆さまをご招待します。チケットかながわにて事前申込が必要です。

Toshi伝説セット券 7500円 ※「共鳴空間」と「エクストリームLOVE(1日パス)」のセット券

kanagawa ARTS PRESS

神奈川芸術プレス WEB版