長塚圭史(演出家・劇作家・俳優)

1年で1本の物語が見えてくるような劇場に。
季節に呼応する劇場は、街とも呼応するはずですから。

新ロイヤル大衆舎×KAAT

「王将」 -三部作-

KAAT神奈川芸術劇場

 2021年4月、長塚圭史がKAAT神奈川芸術劇場芸術監督に就任する。長塚とKAATの歴史は長く、開館の年からほぼ毎年、長塚はKAATで公演を行なってきた。そんな長塚が、2021年度からは劇場にシーズン制を持ち込み、季節に、街に、呼応した劇場作りを目指す。ここでは、プレシーズンに上演される長塚演出「王将」をはじめ、長塚が初年度のラインアップに込めた思いを聞く。

―2019年3月に行われた芸術参与就任会見を機に、長塚さんはKAAT芸術監督に向けての第一歩を踏み出しました。それ以前に、芸術監督という役職についてはどんなイメージをお持ちでしたか?

 関心はありました。イギリスに留学した時に、イギリスの劇場にはそれぞれ芸術監督がいて、芸術監督がある意向を持って、予算を組み立てたり、アソシエイトディレクターを置いたりしながら劇場を運営しているという光景を見ていましたから。なので参与になってからの2年間は「自分には何ができるだろう」と考えていましたね。

―長塚さんはKAATオープン直後の2011年1月、まだKAATに何も色がついていない時に、大スタジオで葛河思潮社「浮標」を上演されました。それから10年の間に宮本亜門さん、白井晃さんと二人の芸術監督を迎え、KAATにどのような色がついてきたと思われますか?

 「浮標」をやらせていただいた時は、とにかく時間と場所をたっぷりと与えてくれる、開かれた劇場だなと思いました。ここ数年はさらに活気が出て、2019・2020年のプログラムに至っては「あれだけマックスにプログラムを組まれると、後を継ぐのが大変だな」というくらい(笑)。でもそのおかげでKAATは発信する劇場、創造型の劇場であるということが全国の演劇ファンと演劇関係者に知らしめられ、すばらしい功績だったと思います。そんなKAATのイメージを踏襲しつつ、僕自身はコロナの問題や働き方改革などについて考えることも芸術監督のミッションの一つだと思うので、新たな劇場のあり方を模索していきたいと思います。また以前から劇場を支えてくださっているお客さまの胸を借りつつ、まだ出会えていないお客さまといかに出会うかを考えながら、この劇場をさらに開いていきたいなと。

―2021年度は、コロナによって延期になった2020年度のプログラムを一部盛り込みつつ、季節やストーリーを感じるラインアップとなりました。4月から7月まではプレシーズン、8月以降はテーマを掲げたメインシーズンとなりますが、シーズン制を取り入れたのはなぜですか?

 1年にメリハリをつけるというか、年間通して観たときに1本の物語が見えるようにしたかったんです。プレシーズンは、雑多でわちゃわちゃと何かが起きているような、劇場からはみ出すような場所にしたい。でもメインシーズンは、あるテーマに沿って、多彩な劇が見られるような時間にしたいなと。今年のメインシーズンは「冒」がテーマなんですけど、”飛び出す、はみ出す、突き進む“作品をやろうと思っています。戯曲に重心をかけ、その作品に望ましい演出家にお願いをしています。またシーズンを設けることで、ラインアップされた演目と外の風景が呼応し始めるだろうし、季節に呼応する劇場は街とも呼応するはずなので、リズムができてくるんじゃないかなと。

―プレシーズンには、長塚さんもメンバーの一人である、新ロイヤル大衆舎の「王将」がラインアップされています。「王将」は、2017年に下北沢の小劇場楽園で上演され好評を博しましたが、今回はアトリウムでの上演です。

 「王将」の体験というのは非常に大きくて。楽園はとても小さな劇場で楽屋も狭いから、俳優たちは下北沢の街にはみ出しながら出番を待ち、出番になると舞台に躍り込んでいく、飛び出していく、というような状況だったんですね(笑)。その光景がとても面白かったし、このまま終わるのはもったいないなと思ったんです。と同時に、「あのアトリウムという空間にはみ出したい、あそこで何かやってみたい」という思いが全く別のところでありました。それらが結びつき、さらに「神奈川県民の皆さんに『王将』の喜びを知っていただけたら」と思い、この作品に決めました。

―またタニノクロウさん作・演出の「虹む街」は、市民劇になるそうですね。

 コロナのおかげで、当初予定していた形とはかなり変わってきていますが、タニノさんと何度も話し合いを重ねて、現段階では、プロの俳優さんと県にゆかりのある、でも演劇にはまったく関わりのない人たちを巻き込んだ形で上演できたらなと。横浜の街の一部がヌルッと劇場に引き出されるような、タニノさんのグロテスクでありながらどこか温かい視界がどう立体化するのか、すごく楽しみにしています。

―そして今年のキッズプログラムは、硬派なイメージがあるダンサー・振付家の北村明子さんが手掛けられるということで、とても楽しみです。

 実は北村さん、ご自身がオファーされているとなかなかわかってくださらなくて。でも、「いや違うんです、北村さんにキッズプログラムの作品を作ってほしいんです!」と改めて説明したら、驚きつつも喜んでくださいました(笑)。「夏休み」をテーマにした「ククノチテクテクマナツノボウケン」。今回は、キッズプログラムとKAAT EXHIBISIONの要素を融合する企画で、北村さんと現代美術作家の大小島真木さんがどんな化学反応を見せてくれるのか楽しみです。

―メインシーズンには野木萌葱さん作・シライケイタさん演出「湊横濱荒狗挽歌」や白井晃さん演出「アルトゥロ・ウイの興隆」再演、小山ゆうなさん演出の「ラビット・ホール」など注目作が並びます。その中から今回は、長塚さん演出の「近松心中物語」について伺いたいです。2019年に演出された「常陸坊海尊」に続く、秋元松代作品となりますね。

 秋元松代さんは神奈川県が誇る劇作家ですが、「常陸坊海尊」を演出して、極めてシンプルな言葉の中に多くの情報が入っている台詞に胸を打たれ、その戯曲の素晴らしさにまた向き合いたいと思いました。「近松心中物語」といえば、蜷川幸雄さんが大衆劇として華々しく発表され、何度も上演された作品ですが、純粋に戯曲として読むと、お金に左右されて惚れた相手と添い遂げられない男女と、物語に恋して心中しようとする裕福な男女の対比に現代性があるなと感じて。その格差と、一目で恋に落ちたその激しさとを、鮮やかに見せたいなと思っています。

―非常に楽しみです。昨年はKAATも他の劇場同様、コロナによってさまざまな打撃を受けました。ただ、予定されていた公演の多くは中止ではなく延期になり、公演を楽しみにしている観客やアーティストたちとの信頼関係を、KAATはより強固なものにしたと感じます。そのような観客、アーティストたちとの関係性を、長塚さんはこの1年でどう深めていこうと思われますか? 

 上演という形でお客さまと出会うことは、ものすごく大事なことですよね。と同時に、創っていることにも非常に大きな価値があると僕は思っています。つまり、”創っていること自体に価値がある“とアーティストが自信を持てるようなあり方を、公共劇場は模索していく必要があるんじゃないかと。だからもし何らかの理由で本番ができなかったとしても、KAATは観客やアーティストに何を保証できるのか、何が提供できるのかを考え、実行していかなければいけないのではないかなと思います。それによって、観客やアーティストたちも「こんな状態ではあるけれど、KAATに行ってみよう」「やっぱりKAATでやってみよう」と思ってくれるかもしれませんし、そのことによって信頼関係が深まるのではないかと思うんです。「KAATは私たちのことをわかってくれる」、そう思ってもらえるような劇場になっていけたらと思います。

取材・文:凛

撮影:黒瀬康之


長塚圭史 Nagatsuka Keishi

演出家・劇作家・俳優。1975年5月9日生まれ。1996年早稲田大学在学中に演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成し、作・演出・出演の三役を担う。2011年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、2017年には、福田転球、大堀こういち、山内圭哉らと新ユニット「新ロイヤル大衆舎」を結成。2008年9月から1年間文化庁・新進芸術家海外留学制度にてイギリスに留学。2019年4月より神奈川芸術劇場・芸術参与。2021年4月に芸術監督に就任。


新ロイヤル大衆舎×KAAT

「王将」-三部作-

2021年5月15日(土) 〜6月6日(日) KAAT神奈川芸術劇場 〈アトリウム特設劇場〉

作:北條秀司 構成台本+演出:長塚圭史 音楽:山内圭哉 

出演:福田転球 大堀こういち 長塚圭史 山内圭哉 (以上新ロイヤル大衆舎)

   常盤貴子 江口のりこ 森田涼花 弘中麻紀

   櫻井章喜 高木 稟 福本雄樹 荒谷清水 塚本幸男

   武谷公雄 森田真和 田中佑弥 忠津勇樹 原田 志

*料金、スケジュール等詳細は決まり次第HP上にてお知らせいたします。

*その他、KAAT神奈川芸術劇場のラインアップ情報についてはP11をご覧ください。

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