加藤のぞみ(メゾソプラノ)

カルメンは以前から一番歌いたかった夢の役。
自由奔放な生き方に憧れます。
日本とヨーロッパでの経験を踏まえて、自分なりのカルメンが演じられたら。

神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ 2019
ビゼー作曲 オペラ 「カルメン」

神奈川県民ホール 神奈川県民ホール

 10月に神奈川県民ホールで上演されるオペラ「カルメン」に主演する加藤のぞみ。神奈川県出身で、現在はスペインを拠点に目覚しい活躍を見せる。「以前から一番歌いたかった夢の役」という本役への思いを聞いた。

―カルメン役に決まった時にどう思われましたか?

 とても嬉しかったです。今回は私にとってこの役のデビューにあたり、誰でも知っている有名なオペラですから不安もありますが、カルメンは私にとって夢の役なので喜びの方が大きかったです。

――やはりメゾソプラノの方にとって「カルメン」は一番の憧れなのでしょうか?

 以前から一番歌いたかった役です。東京藝術大学大学院のオペラ科を卒業する時も、修士演奏に「カルメン」を選びました。私がもっとも惹かれるのはカルメンのキャラクターです。自由奔放な生き方にすごく憧れます。音楽も魅力的ですが、やはりカルメンという役柄が素晴らしいと思うのです。

―カルメン役をどのように演じたいと思いますか? 音楽的な聴きどころも教えてください。

 役作りという意味ではこれから指揮者、演出家とコミュニケーションをとる段階ですので、まだ具体的には分かりませんが、今まで日本とヨーロッパで積んできた経験を踏まえて、自分なりのカルメンが演じられたらと思っています。音楽的な聴きどころは全てですね。その中でももっとも重要なのは、終幕のカルメンの死の場面だと思います。ドン・ホセの要求に屈するくらいなら死を選ぶというのは、私だったらできないなと思うのですが、そこで逃げないのがカルメンの凄さです。

ヨーロッパでのチャンスと学び 

―加藤さんは現在、スペインのバレンシアにお住まいですが、スペインを舞台にしたオペラは多いですね。「カルメン」はセヴィリアを中心とした物語です。

 セヴィリアは訪れたことがあるだけですが素敵な町です。闘牛場の前の広場にはカルメンの銅像が立っているんですよ! アンダルシア地方はフラメンコの一番有名な土地なので、セヴィリアにもフラメンコのバールがたくさんあります。街角には歌を歌っている人やギターを片手に歌う人を普通に見かけます。そしてバレンシアもそうですが、スペインの気候で、太陽が日本とは違うのです。肌にジリジリ来る強さがあります。

―加藤さんがパルマ在住だった2015年に、東京二期会「リゴレット」公演でマッダレーナ役を聴かせていただき、またイタリアでのご活躍も動画などで拝見していますが、加藤さんは歌が端正なだけでなく、役になり切る演技が素晴らしいと思います。役作りの秘訣を教えていただけますか?

 役を演じることは昔から興味がありました。自分ではない誰かになることに惹かれるのです。私はカフェに行くのが大好きで、楽譜を読んだりしながら、その合間にカフェにいる人たちを観察していると何時間でも座っていられます。例えば、男性の役を演じる時には、お客さんや、一緒にカフェに行った男友だちの動作をつぶさに観察することも(笑)。ヨーロッパでは本当に色々な人がいるので、歩き方にせよ、話し方にせよ、そういう人たちを見ているのが役作りになるのかも知れません。それからバレンシア歌劇場の研修所時代に俳優を招いてのマスタークラスがありましたが、そこで男性と女性、年齢と体型による動きの違いなどを教わったのも役に立っていると思います。

―バレンシア歌劇場の研修所(若手歌手育成プログラム)はヨーロッパで人気が高く、加藤さんは日本人で初めて合格して2年間研鑽を積まれました。歌劇場の本公演にも出演されたのですか?

 はい。研修所のオペラ公演以外に、オーディションに受かれば本公演にも出演できました。私は、研修所在籍中にブリテン「真夏の夜の夢」、修了後には「蝶々夫人」「月の世界」「皇帝ティトの慈悲」に出演しています。カヴァー歌手としても「ウェルテル」のシャルロット役などを勉強しました。スペインでは他にビルバオで「ノルマ」のアダルジーザを歌い、今後もオビエードの「蝶々夫人」に出演が決まっています。3月末には研修所の設立10周年記念コンサートがあり、これまで学んだ歌手の中から代表4人に選ばれ、プラシド・ドミンゴ指揮のガラ・コンサートに出演しました。

―スペインに加えてイタリアでのご活躍も多いですね。ごく最近ではトリエステ歌劇場で歌われた「清教徒」エンリケッタ、そしてモデナ歌劇場、パルマ王立歌劇場他で歌われた「アンドレア・シェニエ」ベルシも現地で高い評価を受けました。

 トリエステ歌劇場の「清教徒」は急な代役だったんです。この役は以前レッジョ・エミーリアで歌ったことがありました。初日の一週間前に連絡が来て、次の日にはトリエステに飛んでいました。

 「アンドレア・シェニエ」は同じプロダクションがいくつかの劇場で上演されましたが、キャストの皆さんが素晴らしくてとても印象に残っています。特にその中の何公演かでマッダレーナ役を歌ったサイオア・エルナンデス(スペイン出身のソプラノ。今シーズンのスカラ座開幕公演「アッティラ」にも主演)が本当に素晴らしくて。もちろん歌手としてもですが、人柄も良く、この出会いは私にとって忘れられないものとなりました。彼女がどのように本番まで役を作り上げていくかを稽古から見て、多くのことを学ばせていただきました。

円盤投げの選手からオペラ歌手へ

―加藤さんは神奈川県のご出身ですね。声楽を始めたのはお母さまの影響があったとか?

 はい。私は秦野市出身で、家からは丹沢の山々が見え自然にあふれる良い所です。水がとても美味しいんですよ。母は音楽大学で声楽を学んだソプラノです。母の影響は大きかったと思います。物心がついた時から音楽はすぐそばにありました。母がピアノを教えていたので、私もその影響でピアノを小さい頃から習っていて。

―声楽を本格的に始めたのはいつでしたか?

 高校二年生の時です。高校生の時にはスポーツに打ち込んでいました。円盤投げの選手でインターハイに出場したんです。高校時代はまず第一に部活で、朝から晩まで円盤を投げていました(笑)。でも進路を考える時期になり、陸上で生きていくということは考えられませんでしたから、歌が好きだし本格的に先生に習ってみようと。それで三年生の時にインターハイが終わって引退してすぐに、大分県で開催された滝廉太郎記念 全日本高等学校声楽コンクールに神奈川県代表で出場し、まさか自分で思ってもいなかった優勝を頂いたんです。そこから本格的に藝大を目指すようになりました。

―オペラはアスリートなみに体力が必要ですし、スポーツに打ち込んでいたことが役に立っているのかもしれませんね。最後にこれからどのような活動をしていきたいか教えてください

 これまでイタリアとスペインを中心に演奏活動をしてきましたが、これからはもう少し視野を広げて、ドイツやフランスなどを含めヨーロッパで活躍できる歌手になれればと思っています。また、今回の「カルメン」をはじめとして、日本でも活動の機会が増えれば嬉しいです。

my hall myself

私にとっての神奈川県民ホール

 今回が神奈川県民ホールへのデビューとなります。私は秦野市の出身ですが、音大生の頃は片道2時間半もかけて上野にある大学に通う日々で、県民ホールに親しむ機会もなかなかありませんでした。今回、ドン・ホセ役の福井敬さんを始めとする素晴らしい共演者の方々とこのホールに出演し、神奈川県の皆さまに観ていただける機会に恵まれて本当に嬉しく思っています。


取材・文:井内美香


加藤のぞみ Nozomi Kato

神奈川県出身。東京藝術大学卒業(安宅賞、松田トシ賞、アカンサス賞、同声会賞)、同大学院首席修了(アカンサス賞、武藤舞奨学金)。明治安田クオリティオブライフ文化財団助成により渡伊、その後バレンシア歌劇場にて研修。2015年「リゴレット」マッダレーナで二期会デビュー。これまで欧州各地の劇場で「蝶々夫人」「コジ・ファン・トゥッテ」「ノルマ」等に出演。バレンシア在住。二期会会員。


神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ 2019 グランドオペラ共同制作

ビゼー作曲 オペラ「カルメン」 全4幕

フランス語上演・日本語及び英語字幕付き/新制作

2019年10月19日(土)・20日(日) 各日14:00 神奈川県民ホール 〈大ホール〉

指揮:ジャン・レイサム=ケーニック 演出:田尾下 哲

出演(19日/20日)

カルメン:加藤のぞみ/アグンダ・クラエワ ドン・ホセ:福井 敬/城 宏憲

エスカミーリョ:今井俊輔/与那城 敬 ミカエラ:髙橋絵理/嘉目真木子 

フラスキータ:清野友香莉/青木エマ

メルセデス:小泉詠子/富岡明子 モラレス:近藤 圭/桝 貴志 

スニガ:斉木健詞/大塚博章

ダンカイロ:大沼 徹/加藤宏隆 レメンダード:大川信之/村上公太

合唱:二期会合唱団 児童合唱:赤い靴ジュニアコーラス 

管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団

全席指定 S 16000円 A 13000円 B 9000円 C 7000円 D 5000円 E 3000円 学生(24歳以下・枚数限定)2000円


Photo(上から)

東京二期会オペラ劇場 「リゴレット」  ©三枝近志

「ノルマ」 アダルジーザ役 2018年スペイン・ビルバオにて ABAO-OLBE. Norma 2018 ⓒE. Moreno Esquibel   

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