知れば、知るほど、好きになる「『美術』と『パフォーマンス』」

美術の小箱

「美術」と「パフォーマンス」

 芸術におけるパフォーマンス。音楽、演劇、ダンスであれば文字通り演奏、演技となり、一般的に劇場やホールの舞台上で上演されます。では、美術における「パフォーマンス」とはどのようなものでしょうか。

 一般的に「パフォーマンスアート」と称されるこの表現は、美術(視覚芸術)の一分野であるものの、絵画、彫刻、工芸、写真、映像などの物体が作品を構成する表現とは異なり、美術作家の身体や作家のディレクションによる複数の人物の動きで作品が構成されます。また、ホワイトキューブ(白壁の空間)という特性や開館時間の制約をもつ美術館だけでなく、広場、教会、工場などで長時間に渡る作品としても実現されています。

 20世紀美術における代表的なパフォーマンスアート作品の一つに、ドイツの作家ヨーゼフ・ボイスの『コヨーテ -私はアメリカが好き、アメリカも私が好き』(1974年)が挙げられます。ボイスは、ニューヨークの空港到着後、どこにも立ち寄らず画廊に赴き、展示空間に新聞や干し草などが積まれた環境で、アメリカ先住民にとって聖なる動物と位置づけられていたコヨーテとともに一週間過ごしました。このパフォーマンス期間中彼はスタッフ以外のアメリカ人には一人も会わず、アメリカの日常生活に触れることなくドイツに帰っており、この作品は、先住民の生活や文化を排除し発展を続けてきたアメリカ社会を暗に批判したものといえます。

 音楽においても、楽器を使用する演奏という表現の中で、「パフォーマンス」性を孕んだ作品があります。ボイスと同じく20世紀において実験的創作活動で名高い作曲家ジョン・ケージの『4分33秒』(1952年)です。この3楽章から成るピアノ曲は、楽譜に比較的長い間の休みを意味する「TACET(タセット)」が記されており、ピアニストはピアノの前で終始、沈黙をした状態で「演奏」を行います。 

 この10月に開催される、やなぎみわの個展「神話機械」でも美術の多角的表現としてのパフォーマンスが予定されていますので、ご期待ください。


Photo

ヨーゼフ・ボイス Joseph Beuys Filtz TV by Lothar Wolleh


楽器ミュージアム

コルネット

 ブラスバンドやジャズなどで活躍する「コルネット」。図の通りトランペットそっくり。実際、管の長さがトランペットと同じなので、音域も同じですが、トランペットより太く柔らかい音色が特徴です。

 この違いは、コルネットがホルン(角笛)を原型とするから。1834年フランスのホルン奏者F.ペリネがポストホルン*に円筒式(ピストン)バルブを装着して誕生しました**。

 産業革命の技術進歩の時代を迎えた19世紀初頭。本シリーズでもご紹介してきたとおり、管楽器に水道やガス管の開閉に使われる「バルブ装置」を装着し、長さの異なる管を何本も持ち替えずに、容易に管の長さを切り替えて、さまざまな高さの音を奏することができるようになります。

 コルネットは、トランペットと比べると、管の内径が太く、マウスピースも深さがあり、終端のベルに向かう管の円錐の角度も広くなっています。このため、その音色の特徴に加えてトランペットより演奏が容易で、19世紀のフランスではトランペットよりも高い人気を誇りました。

 フランスの作曲家ビゼーの代表作、オペラ「カルメン」(1875年初演)でも、トランペットではなくコルネットが指定されています。

 カルメンに復縁を迫るドン・ホセが逆上し彼女を刃にかけるクライマックス。恋敵の闘牛士の勝利を祝う闘牛場からファンファーレが響きます。王侯貴族の勝利と征服を祝うトランペットではなく柔らかなコルネットの響きは、魔性の女に翻弄された素朴な青年ドン・ホセの、悲しい凶行の場にふさわしいといえるでしょう。

 「カルメン」はこの10月、神奈川県立ホールで上演されます。お楽しみに。

*ポストホルン:郵便馬車の御者が合図で吹くラッパ。長い管を大きく巻いて肩にかける。

**フランスでは「コルネット」は「コルネ・ア・ピストン(ピストン付きホルンの意)」、ドイツでは「ピストン」と呼ばれる。

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