知れば、知るほど、好きになる「ジュークボックスミュージカルを楽しむ」「ヴァイオリンの弓」

演劇の小箱

ジュークボックスミュージカルを楽しむ

 ミュージカルの楽曲は、脚本と同時進行で制作されるのが一般的。歌詞は脚本の一部であり、特定のプロットに沿って書き下ろされます。それに対して、既存のポピュラーソングを使って物語を仕立てるという逆転の発想から生まれたのが、“ジュークボックスミュージカル”。

 たとえば、有名なミュージシャンの生涯を描いた伝記的な作品だったり、音楽やダンスに青春をかける主人公の物語であれば、ヒット曲がまるでジュークボックスのように次々と登場しても、違和感はありません。が、1999年にロンドンで初演された「マンマ・ミーア!」は、スウェーデンのポップグループABBAのヒット曲を使って、シングルマザーと娘の心温まる物語を作り上げ、大反響を呼びました。

 新たに曲を書き下ろすよりも、既存曲を使ったほうが簡単なのでは? と思うかもしれませんが、歌詞の内容も曲調もバラバラの楽曲を組み合わせて、見応えのあるドラマを作り出すには、かなりのセンスが必要。「マンマ・ミーア!」はそれを見事にやってのけ、権威あるローレンス・オリヴィエ賞やトニー賞にもノミネートされました。

 これがブームの火付け役となって、クイーンの曲を使った「ウィ・ウィル・ロック・ユー」や、80年代のロックの名曲で構成された「ロック・オブ・エイジズ」などが大ヒット。原曲を知る人は、懐かしさが込み上げてノリノリになりますし、原曲を知らない人にとっては、こんな曲があったなんて!という発見につながります。

 多くの場合、ジュークボックスミュージカルのカーテンコールはおなじみのメロディの大合唱になり、コンサート的な楽しさがあるのも魅力のひとつ。ストレス解消にもお薦めです。

文・浮田久子


楽器ミュージアム

ヴァイオリンの弓

 今から400年ほど前に誕生したヴァイオリン。その本体の基本構造はほとんど変わっていませんが、「弓」は歴史のなかで大きく変化してきました。

 木製の枠の両端に馬の尻尾を張る弓は狩りの弓が起源と言われます。ヴァイオリンの祖先とされる中世のフィドルの弓は、狩りの弓によく似た木部の先端が毛の方に向いた凸型で、ヴァイオリンの弓も18世紀半ばまではこの凸型タイプ(バロック弓)でした。短く軽量なため、軽快で躍動感のある音楽を表現しやすく当時のバロック音楽にはぴったりで、今日でも古楽器奏者はこの弓で演奏しています。

 18世紀末に演奏の場が宮廷のサロンから大勢の市民が集う大きな演奏会場に移行していくと、ヴァイオリンはより大きな音量を出す必要に迫られます。この時代の要請に応じてフランスの弓職人フランソワ・クザヴィエ・トゥルテは、近代ヴァイオリン奏法の開祖である名手ヴィオッティから示唆を得ながら、凸型だった木部の先端を反り返った凹型にして毛の張りに板バネのような弾力性をもたせ、全長をより長くまた重いものへと変えました。

 この弓で弾くと、長い旋律を滑らかにたっぷりと弾き切ることができます。これはまさに19世紀ロマン派のヴァイオリン音楽のスタイル。トゥルテの弓は今日まで弓の模範(モダン弓)として継承され製作されています。

 ところで、弓毛の馬の尻尾は、弓1本につき160~180本を束ねるのですが、縮れ毛や太い毛を外してまっすぐで均一な太さだけ選り分けて使うため、たいへん高価なものです。しかも演奏すると磨滅してしまうので、プロの演奏家は2~3か月で張り替えるのだそう。細やかな手当てがあってこそヴァイオリンの美しい響きは生まれるのですね。


イラスト:バロック弓(上)とモダン弓(下)。弓毛は松の樹脂を固めた松脂の塗付が必須。粘着性のある松脂の粉が毛に無数の刻み目をつくり、弦をしっかり擦れるようにします

kanagawa ARTS PRESS

神奈川芸術プレス WEB版