田崎尚美/ 岡田昌子 (ソプラノ)

神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ 2020
グランドオペラ共同制作

プッチーニ作曲 オペラ 「トゥーランドット」

神奈川県民ホール

 プッチーニの遺作となったオペラ『トゥーランドット』。伝説の時代の中国を舞台に波乱に満ちたストーリーが繰り広げられ、テノールのアリア「誰も寝てはならぬ」でもよく知られる傑作だ。新型コロナウイルスの影響で休館を余儀なくされていた神奈川県民ホールの再開後、初めてのオペラ公演となり、豪華な出演者による大規模な舞台が待ち遠しい。タイトルロールを歌うプリマ・ドンナ二人に上演への意気込みを語ってもらった。


田崎尚美

―田崎さんがオペラ歌手になったきっかけを教えてください。

 母親が音楽大学の声楽科出身でピアノの先生をしていました。その影響で子供の頃からピアノを習い、中学校では合唱部に入ったんです。合唱が盛んな学校で、在籍していた三年間は全日本合唱コンクールで毎年金賞を取っていた程でした。三年生の時にそのコンクールでソロのパートを歌うことになります。大きなホールでソロを歌った初めての経験でした。歌を専門に学びたいと思ったのはその頃だったと思います。

―今回『トゥーランドット』のタイトルロールを歌うにあたっての抱負は?

 私は普段、ドイツオペラを歌う機会を与えていただくことが多いのですが、やはりイタリアオペラも歌いたい、という気持ちがありました。その中でもトゥーランドットは一番歌いたかった役です。なによりトゥーランドット姫は、出てきただけで「綺麗だ!」と言ってもらえる役の極め付けですから(笑)。

 トゥーランドットは第二幕で本格的に登場し、一つの音がポーンと鳴って最初のアリアを歌います。高音域が多く、オーケストラや合唱を突き抜ける必要がありますし、ちょっと人間離れした、ある種、厳しい雰囲気があるのです。もう一人のヒロインであるリューがメロディックなのと比べて、張り詰めた感じの音楽の運びで、音の跳躍も多いですし、幅広い音域が必要な役です。でも、これらのことが大変そうに見えず、お客様に物語の内容を感じながら観ていただけることを目指して歌いたいと思います。

―登場のアリア「この王宮で」は聴きどころだと思いますが、他に魅力的なシーンはありますか?

 そうですね。第二幕でカラフがすべての謎を解いてしまった後、トゥーランドットが父皇帝に「どうか自分をこの男と結婚させないでほしい」と懇願します。ここはトゥーランドットがそれまでと違う美しい旋律を歌う、初めて人間らしい感情をのぞかせる瞬間です。閉じ込められていた彼女の叙情性が出てくる場面だと思います。

―指揮、演出、そして共演の方々はいかがですか?

 今回、指揮と演出の方は初めてご一緒するので楽しみにしております。共演はよく知っている方が多く、また素晴らしいリューの大村さんとご一緒させていただけて嬉しいです。そして私は昔から、カラフを歌われる福井敬さんの大ファンで、同じ舞台で相手役として歌うのは初めてなのですごくテンションが上がっています。

―読者へのメッセージをお願いします。

 今回の公演は、座席を一席ずつ空けるなど制限もありますが、その分、周りの人を気にせずにゆったりとオペラを観ていただけるのではと思います。私にとっては自粛期間後の初めてのオペラ出演となり、完全に充電が完了していますので、100%、それ以上の充実した歌をお聴かせできたらと願っております。 


my hall myself

私にとっての神奈川県民ホール

これまで県民ホールでは、2013年の『ワルキューレ』公演でゲルヒルデを歌いました。その時はブリュンヒルデのカヴァー歌手を務めていました。2012年『タンホイザー』、2016年『さまよえるオランダ人』もカヴァーをさせていただいたので、リハーサルの間、いつもホールの客席から舞台を観ていた思い出があります。洗練された横浜の街に良く合った雰囲気を持つ、素晴らしいホールで再び歌えるのが楽しみです。


田崎尚美 Tasaki Naomi

東京藝術大学卒業(アカンサス音楽賞および同声会賞)、同大学院修了。東京二期会には『パルジファル』クンドリでデビュー、豊かな表現力と美しさを携えた声で圧倒的な存在感を示し、『イドメネオ』エレットラ、『ナクソス島のアリアドネ』『サロメ』各題名役にて出演。日生劇場『ルサルカ』題名役やびわ湖ホール『ワルキューレ』ジークリンデでも好評を得る。二期会会員。


岡田昌子

―岡田さんはイタリアにお住まいですが、最近の状況はいかがですか?

 イタリアは厳しいロックダウンが長く続きましたが、その後は落ち着いています。コロナが拡がった時に日本に帰るかどうか決断を迫られましたが、私はイタリアに残りました。ロックダウン中はすべてがストップしていましたが、毎日、歌の練習、そして運動を欠かさずにいました。7月以降は色々動き出し、イタリアの夏は野外のフェスティバルが多いので、私も歌う予定があります。

―これまでイタリア・オペラのドラマチックな役を多く演じていらっしゃいます。『トゥーランドット』も何度も歌われていますが、最初からこのようなレパートリーに適した声をお持ちだったのでしょうか?

 大学時代から師事した林康子先生が、いつ何を歌うべきか指導してくださいました。声はワインと一緒で、正しく育てればより豊かに実っていきます。一般的に言えば、ドラマチックな役が合う声なのだと思いますが、人それぞれ違った声があります。その人なりの声で、その人なりの思いを持って、一つの役を歌えば良いのではと思うのです。

―トゥーランドットの性格をどのように解釈していらっしゃるか教えてください

 彼女はミステリアスな女性です。トゥーランドットが初めて歌う場面は第二幕のアリア「この王宮で」ですが、ここはその雰囲気を出すのが重要です。彼女はオペラの中で変化します。初めは氷のように冷たい姫君だったのが、最後には愛を歌い上げる。おそらくトゥーランドットは、それまでに会ったことのなかったカラフのようなたくましい男性が現れ、衝撃を受けたのだと思います。それが彼女を変えてしまいました。歌っている時間は比較的短いですが、その中で彼女の気持ちの変化を歌唱で表現したいです。

―プッチーニのオペラを数多く歌われている岡田さんが思うプッチーニの魅力とは何でしょう?

 プッチーニの魅力は、すごくロマンチックなところですね。『マノン・レスコー』の音楽など、聴いているだけで本当に幸せになります。でも、プッチーニを歌うのは難しいです。波のようにうねっていくあの音楽。『トスカ』『蝶々夫人』などは、中音域で歌うところが多く、オーケストラが厚みのある音を鳴らしていますから大変です。

―オペラ歌手として今後、どのような活動をしていきたいですか? 歌いたい役は?

 私はあまりあの役をやりたい、この役をやりたい、ということはありません。有名な歌手ではなく、本当の歌を歌える歌手になりたいです。役というのは巡り合わせです。ですから今は、この『トゥーランドット』を自分にできる全ての力を注いで歌いたいと思っています。

―最後に読者へのメッセージをお願いします。

 神奈川県民ホールの再開後、初めてのオペラとして『トゥーランドット』という素晴らしい作品が上演されます。日本の第一線で活躍している共演者の方々と一緒に、良い公演になるように務めたいと思っております。オペラが初めての方も、またどんな年齢層の方でも楽しめる演目だと思いますので、どうぞいらしてください。


my hall myself

私にとっての神奈川県民ホール

 2014年のファンタスティック・ガラコンサートで初めて歌わせていただきました。声が良く届くホールだと思ったのを覚えています。今回も素晴らしい音響を活かして十分に歌えるようにしたいです。


岡田昌子 Okada Shoko

東京藝術大学卒業、同大学院修了。文化庁海外派遣研修員、五島文化記念文化賞、オペラ新人賞等により渡伊。日伊声楽コンコルソ第1位および歌曲賞、フィオレンツァ・コッソット国際コンクール特別賞、ウッザーノ国際コンクール第1位および蝶々夫人賞他受賞多数。『ナブッコ』アビガイッレで二期会デビュー、昨年はスペイン、マラガセルバンテス劇場への出演や日生劇場『トスカ』題名役等、いずれも高く評価された。二期会会員。


取材・文:井内美香


神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ 2020 グランドオペラ共同制作

プッチーニ作曲 オペラ「トゥーランドット」

全3幕/イタリア語上演・日本語および英語字幕付き/新制作

2020年10月17日(土)・18日(日) 各日14:00 神奈川県民ホール 〈大ホール〉  

※詳細はこちらをご覧ください。


Photo:

(中)田崎尚美:クンドリ役 東京二期会オペラ劇場「パルジファル」 ⓒ三枝近志

(下)岡田昌子:アビガイッレ役 東京二期会オペラ劇場「ナブッコ」 ⓒ野村正則

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