愛と哀しみの傑作(マスターピース)フリッツ・クライスラー 「愛の喜び」

フリッツ・クライスラー

「愛の喜び」

 バイオリンの帝王と呼ばれるフリッツ・クライスラーは、1875年、開業医の子としてウィーンに生まれます。彼はまさに天才・神童でした。3歳の頃にはABCを覚えるより先に楽譜が読めたといいます。7歳でウィーン音楽院大学部門に入学。10歳にして首席で卒業。その後、パリ高等音楽院に留学。12歳で一等賞(プルミエ・プリ)を獲得し卒業します。

 若い頃のクライスラーは酒とギャンブルと女性を愛するボヘミアンでした。徹夜なんて当たり前。有り金を全てすって、ホテルの給仕に夜会服を借りてコンサートに出演したり。女性に熱をあげ、ロシア皇帝御前での演奏をキャンセルし国外追放されたり。ヴァイオリンを質屋に入れ、借り物のヴァイオリンで演奏会に出演したり。なんとも破滅的な生活を送っていました。

 そんなクライスラーに転機が訪れます。1901年、アメリカからヨーロッパに戻る客船で、赤毛のアメリカ美人ハリエット・リースと出会うのです。ブルックリンの裕福な煙草商の娘で離婚歴のある女性でした。二人は航海中に婚約し、翌年ニューヨークで結婚します。

 ハリエットはクライスラーの生活を規則正しく健康なものへと一変させます。また、彼が苦手とする日常の身の回りのことを全て世話し、さらには有能なマネージャーとして彼を支えます。同時代のヴァイオリニスト、ジャック・ティボーは「ハリエットがフリッツを救ったのです。ベストの状態で演奏会に臨めるようにしました。彼が偉大な音楽家になれたのは彼女のおかげです。」と証言しています。クライスラー自身も「ヴァイオリニストとしての私は全てをハリエットから得ている」と語っています。

 そんな幸福の中、1905年に発表されたのが「愛の喜び」です。まさに愛を謳歌するような華やかで心弾むメロディー、世界中のヴァイオリニストたちが演奏する名曲となったのです。



フリッツ・クライスラー Fritz Kreisler (1875-1962)

オーストリア出身のヴァイオリニスト、作曲家。後にフランスを経てアメリカ国籍となった。本名はフリードリヒ・クライスラー。ヴァイオリンのために多くの名曲を残した。代表作は「愛の喜び」、「愛の悲しみ」、「美しきロスマリン」など。


イラスト:遠藤裕喜奈

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