知れば、知るほど、好きになる「オペラのなかの合唱」「クラリネット」

音楽の小箱

オペラのなかの合唱

 コロナ禍で他の舞台作品同様多くのオペラ公演が中止となっています。

そのオペラといえば、まずはスター歌手が美声を競うヒロイン、ヒーローが思い浮かびますが、スターの後ろに並ぶ「合唱」もまたオペラ史のなかで重要な役割を担ってきました。

 合唱=コーラスの語源「コロス」とは、古代ギリシャの演劇で背景の説明や登場人物の心情の補足、物語の教訓を歌う人々を指す言葉。16世紀末に古代ギリシャ演劇を再興する試みから誕生したオペラは、当時から合唱を効果的に使ってきました。

 とりわけ市民社会が醸成した19 世紀以降、合唱はオペラのなかで主人公=個人に対して民衆の意思の表明する役割を担うようになります。

 ドイツ・オペラの巨人ワーグナー(1813-83)は、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』で、市民同士の喧嘩を合唱で表わしました。人々はそれぞれ異なる意志を持つ個人として多くの声が複雑に絡み合い、圧巻の場を創り出します。

 ワーグナーと同い年でイタリア最大のオペラ作曲家ヴェルディ(1813-1901)もまた合唱を巧みに用いました。彼の最も有名な合唱曲、『ナブッコ』の「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」では、古代バビロンの捕虜となったヘブライ人たちが望郷の思いと苦難を乗り越える希望を託して、声を一つにして歌いあげます。初演直後、この合唱曲はイタリア独立運動の愛唱歌となったといわれるほど人々の共感を呼ぶところとなりました。

 合唱は、オペラに深みとダイナミズムを与える表現の要であるとともに、人々を繋ぎ困難に打ち克つ勇気をもたらすチカラにもなります。

 いま、オペラを劇場に取り戻すためにウイルス感染の対策をとった上演に向けての模索が続いています。オペラのドラマに心を震わせ、合唱に明日へのチカラをもらう、その日の実現を皆さまと共に待ちたいと思います。


イラスト:古代ギリシャ演劇の仮面をつけたコロス


楽器ミュージアム

クラリネット


 マウスピースに1枚リードを取り付け、奏者が息を吹き込んで音を出すクラリネットは、以前ご紹介したサクソフォーンの先祖となった木管楽器。とはいえ、その誕生はフルートやオーボエよりはずっと新しく、18世紀初頭。ドイツのフルート製作者、デンナーが作りました。

 音域は約4オクターブとオーケストラで使われる管楽器中もっとも広く、消え入るような弱音から華やいだ強音までと多彩な響きが可能なクラリネットは、かのモーツァルトを筆頭に大作曲家たちに大いに気に入られ、吹奏楽、ジャズなどさまざまなジャンルでも重要な役割を担ってきました。

 クラリネットは同族楽器が多く、もっとも一般的なB(=シ)♭管クラリネットの長さは約70cm。フルートよりほんの少し長い程度ですが、フルートより1オクターブ低い音を出すことができます。それはマウスピースに歯をたててしっかりくわえ、フルートのように吹き口から息を出さないことに加え、オーボエやサックスのように本体の管内部が円錐ではなくまっすぐな円筒であるためです。

 と書くと、クラリネットは他の木管よりハイスペックと言えそうですが、この構造のために、指孔の開閉だけでは出しにくい半音ができてしまいました(詳しくはこの紙面では余裕がないので別の機会に)。クラシック音楽では、楽曲のなかでフラットの付く音が多いところはB♭管を、シャープの音が多いところはA(=ラ)管の2本を持ち替えながら演奏します。B♭管・ A管は音の高さばかりでなく、音色も微妙に異なります。管弦楽作品には、この2本を巧みに使い分けた名曲が数多くあります。オーケストラ・コンサートでは、ぜひクラリネットの使い分けの妙を味わってください。


イラスト:B♭管(左)・A管(右)クラリネット。A管はB♭管より基本の音が半音低いため4㎝ほど長い。明るいB♭管に対してA管は深い響きがする。このほかにEs(ミ)♭管(ソプラノ)、アルト、バスクラリネットなどがある

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