横浜美術館の「子どものアトリエ」は、プレイルーム、クラフトルーム、光と音のスタジオ、そして中庭からなる、小学生(12歳)までの子どもたちのためにつくられた創造の場。
ここでは、「自分の目で見て、自分の手で触れ、自分でやってみること」をテーマに、子どもたちの主体性を大事にした様々な造形プログラムが開催されています。
そのなかでも、週末に定期開催され、毎回約300人もの親子でにぎわうのが、「みんなのフリーゾーン」。
聞き手・文 : 編集部
「みんなのフリーゾーン」は、「自分でえらぶ」「自分で決める」という気持ちを引きだし、「やってみる」意欲をはぐくむことを目的としたプログラム。粘土、紙、絵の具の3つの素材から各コーナーが用意され、自由に素材が選べます。取材日の5月18日も、思い思いの素材で創作する子どもたちで活気にあふれていました。
例えば絵の具コーナーの特徴は、赤・青・黄・白の4色だけが用意されていること。この4つの色を組み合わせることで、いろいろな色を生みだすことができます。子どもたちは、まずつくりたい色をイメージし、スタッフとコミュニケーションをとりながら、色を混ぜた時の変化を発見する楽しさに出会います。そうしてつくった色を使い、中庭(天候や気温により室内で実施する場合もあります)にある専用のお絵描きボードのほか、窓ガラスや床をキャンバスに、自由に絵を描いていきます。


エデュケーターの園田泰士さんはこう話します。「このプログラムは、こちらからつくり方を提示することはありません。困っていたら方法を提案しますが、私たちが大切にしているのは、まずは見守ること。失敗するなと思うことをやろうとしていても、先に言わない。自分でやってみて『あ、だめだった』と知る、そのあとに試行錯誤しながらつくることが大切だと考えています」。
園田さんたちがもう一つ心がけているのは、子どもたちの好奇心がわき立つ素材を準備すること。紙の素材として、様々な色紙のほか、使わなくなった印刷物などが置いてあるのも印象的でした。
「ここは素材を体験する場でもあります。新しい紙だけでなく、廃材も切ったり組み合わせたりすることで思いがけない発見につながる。子どもがこちらの想像を超えてくるのが、面白いですね。『この素材をこんな風に使うの?』と驚くことも」と園田さん。
1989年の横浜美術館開館時からある子どものアトリエのプログラムには、子どもの頃に参加していた人が保護者になって再来するケースもよくあるそうです。そんなつながりも大切にしながら、昨年3月のリニューアル後、今年2月に全館オープンしたあとは、美術館そのものに子どもが気軽に来られるような仕組みが増え、楽しみながら作品を鑑賞できる工夫が館内のそこかしこに。また、展示室での作品鑑賞と「子どものアトリエ」での造形活動をさらに結びつける取り組みを行っています。
「リニューアルを機に学校向けのプログラムを、造形と鑑賞をセットで実施する方向に統一しました。手を動かす造形活動のあとの鑑賞では、子どもたちに感想を聞くと本当にいろいろな意見が出るんです。『私はこれにみえた』『僕たちがつくったものと似ているのはこれだね』という具合に。作品について語り合うのも、美術の楽しみ方の一つですね」
