赤ちゃんと保護者が一緒に楽しむ、乳幼児のための舞台芸術「ベイビーシアター」。
欧米を中心に広がり、日本でも演劇や音楽、ダンスなどの多ジャンルの作品がつくられています。
ゴールデンウイークに川崎市アートセンターで上演された『かぜのうた』は、0歳~28ヶ月の乳幼児を対象にしたベイビーシアター。
赤ちゃんのみる力、きく力、かんじる力を信頼し、大人たちもともに楽しむ空間です。
この日も何組もの家族が劇場を訪れていました。
聞き手・文 : 河野桃子
公演写真 : Eightree

構成・演出 : くすのき燕
出演 : 大沢 愛
美術 : 大澤 直
照明デザイン : 吉嗣敬介
日程 : 5月3日、4日
会場 : 川崎市アートセンター 小劇場
主催 : 川崎市アートセンター
『かぜのうた』は、前半は日本のわらべうたあそび15分の「あそぶ時間」、後半は本編20分の「みる時間」で構成されています。企画・出演を担う大沢愛さんは「わらべうたを通して、赤ちゃんたちの能力、人としての存在感を目の当たりにしました。わらべうたあそびの延長線上に、親も子も心の深いところで感じる世界があったらいいな、そう思って『かぜのうた』をつくりました」と言います。真っ暗ななか、ほんのりと照明がともる。そよぐ春風、夏の雨の匂い、すこしだけ冷たい秋風、冬じたくの寒空。劇場のなかで四季折々の変化が生まれます。子どもたちは、うっとりと蛍の光を見つめたり、青い照明に「雨だ!」と声を上げたり、舞台に上がって音の居場所を探す子まで。四季の移ろいに目を奪われているのは子どもたちだけではありません。大人からも「わぁ」と声が上がります。

大沢さんがベイビーシアターに出会ったのは、ご自身の子育てが始まる時でした。親になったばかりの不安や自分自身の生き方に対する迷い、そんな気持ちも抱えていた当時、「ベイビーシアターは心を解放し自分に立ち返る空間。今思うと、社会との接点だったのかもしれない」と言います。「いつか自分でもそういう場をつくりたい」。大沢さんがそう思いはじめてから10年後の2014年に『かぜのうた』は誕生しました。
出演者は大沢さん一人ですが、スタッフもともに場をつくる大切な存在。“あそび”のワンシーンでは川崎市アートセンターのボランティアスタッフも活躍します。作品のような柔らかな笑顔で大きな布を広げると、大人も子どもも顔を輝かせます。
また、川崎市アートセンターではサポートや配慮が必要なお子さんが安心して参加できる「リラックス公演」をもうけています。「すべての赤ちゃんが当たり前にベイビーシアターを体験できる世の中になるといいですね。赤ちゃん——小さな人にも人格と人権があり、全身で感じる力をもっている。そんな意識を大人たちがもっていたら、社会はより良くなるでしょう。2022年に発足した、一般社団法人 日本ベイビーシアターネットワークも4期目を迎え、徐々にその輪が広がっています。小さな一歩に大きな願いを込めて、ベイビーシアターを届けたいと思っています」。