神奈川県立音楽堂では、神奈川フィルハーモニー管弦楽団(以下、神奈川フィル)の協力のもと、コンサート当日のリハーサルを小学生から高校生の子どもたちに無料公開しています。
15年前から始まった事業で、年に3〜4回実施しており、100名限定の募集枠はほぼ毎回埋まるそう。
リハーサルを聴いたあとには、質問タイムが設けられ、神奈川フィルのスタッフが、小中高生の幅広い興味に応じて丁寧に回答をします。
さらに、あとから寄せられた質問に対しても、返答をホームページに掲載。
子どもたちへの熱心な対応がうかがえるこの企画について、音楽堂と神奈川フィルの思いを聞きました。
聞き手・文 : 猪上杉子
写真 : 大野隆介
ある土曜日、音楽堂では15時から神奈川フィルの「音楽堂シリーズ〈Classic Modern〉」と題する公演が行われる予定です。11時30分からの当日リハーサル(クラシック・ファンは「ゲネプロ」と呼んでいます。ゲネラル・プローべ、つまり総稽古の略です)を無料公開するとあって、応募した大勢の参加者がホワイエ(ロビー)に集まっています。
両親と一緒の小学生や、吹奏楽部らしき楽器を抱えた高校生たちという、広い年齢層の子どもたちに向かって、神奈川フィルの常務理事・音楽主幹の榊原徹さんからリハーサルの聴きどころが伝えられました。

ホワイエから移動して行儀良くホール後方の席についた子どもたちの目には、カジュアルな服装の楽員たちが思い思いに音を出している舞台の風景が広がります。そこに登場したのは今日のコンサートの指揮者を務める野平一郎さん。オーケストラと親しげに少し会話したあとに、客席に向き直って「今日演奏するラヴェルの曲は〜」とやさしい言葉づかいで解説をしてくれました。
1曲目をすべて通して演奏したあとに、野平さんからオーケストラに対して、いくつか——テンポについて/弦楽器の弾き方について/管楽器の奏法についてなど——の指摘や再確認がありました。指揮者とオーケストラの真剣なやりとりの様子を垣間見ることができました。
2曲のリハーサルを聴いたあと、ホワイエに戻った参加者は、神奈川フィルの榊原さんに迎えられ、「どんなことを感じたかな?」と感想や質問をうながされます。まず手が挙がったのは小学生たち。榊原さんは吹奏楽部の部活動の一環で参加していた高校生にも声をかけます。また、この場で手を挙げる活発な子どもばかりではなく、シャイな性格だったり、ゆっくり考える子どもへの対応もあり、あとからでも質問を受け付け、後日ホームページにきめ細かく的確な回答が掲載されます。
5月24日開催「小中高校生のための公開リハーサル」の質問回答ページ

このような取り組みを長年続ける意味を、神奈川フィルの榊原さんと音楽堂のプロデューサーの日下郁さんに聞きました。
「神奈川フィルにとって神奈川の地でクラシック音楽を皆さまに広く楽しんでいただくことが一番大事なこと。特に子どもや若い層に、オーケストラを知ってもらい親しんでほしい。そしてぜひもう一回、次は演奏会でオーケストラを聴いてほしいと願っています」(神奈川フィル・榊原さん)
「未来の聴衆、未来の音楽堂ファンになってほしいという希望があります。一度足を運んでもらって、ここは大人だけが楽しむ場ではないこと、緊張する場所でもないことを感じとってもらいたい。音楽堂の主催コンサートは高校生以下無料(枚数限定)ということも告げ、子どもたちを歓迎していることを知らせて、いつかコンサートに足を運ぶ大人になってもらいたいです」(音楽堂・日下さん)