神奈川芸術文化財団が運営している県民ホールと音楽堂。
それぞれ、神奈川県全域に文化芸術を届けていきたいと、外に向けた様々な取り組みを行っています。
なかでも新しい試みがみられる事業について、
プロデューサーの本目久子さん(県民ホール)と日下郁さん(音楽堂)に聞きました。
取材・文 : 編集部
県民ホール
県域展開
今年4月に休館し、建て替えを計画している県民ホール。オペラやバレエ、室内楽、ダンス、ギャラリー企画展、ワークショップなど、これまで行ってきた事業のノウハウを活かし、休館中は神奈川県内の様々なホールや施設などで事業を展開していく予定です。県民ホールはこれまでに県内の施設で、オペラなどの巡回公演を行ってきましたが、休館中は33市町村すべてに毎年行くことを目標に掲げています。プロデューサーの本目さんは、「よりよいかたちで県域展開を進めていくために、まずは各市町村のホールや施設、自治体、地域団体などの人たちと関係性をつくり、協働して事業を行っていくことが目標の一つ」だと言います。
「場所によっては、大きなホールがある地域、小さな施設しかない地域など様々。そこに県民ホール主催の企画をただ持ち込むだけでなく、その場所や住民のニーズに合った事業・公演を、各館や自治体の人たちと一緒につくっていきたいと思っています。皆さんとコミュニケーションをとりながら、それぞれの地域の人たちの声をしっかりと拾い、文化芸術に対する思いを吸収しながらやっていく。それが県域全体の芸術文化、ひいては新しい県民ホールのあり方にも結びついていくと考えています」
さらに、この県域展開のなかで、県民ホールにとっては初の演劇作品にも取り組みました。「今年度は種まきです。これまでやったことのなかったジャンルも含めていろいろな企画を展開して、皆さんの声にも耳を傾けながら、次年度につなげていければと思っています」と本目さん。その第一弾として、リーディングドラマ『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』を企画し、全国でツアー上演しました。今後は、町役場や元布団屋さんなど、地域の特色ある場所で開催する写真展「カナガワ ポトガラヒー 出張浅田撮影局|開成編/真鶴編」(12月)なども予定しています。

音楽堂 先生のためのアウトリーチ
音楽にふれる機会をより多くの人に届けるために、ホール以外の場所に訪問し、公演やワークショップを行う「アウトリーチ」活動。2021年から小中学校の先生に向けた取り組みを開始しました。プロのアーティストが、県内各地の教員が集まる研究会に赴き、音楽教育へのヒントとなるワークショップやディスカッションを行っています。プロデューサーの日下さんは、「技術向上や指導方法などの先生方の具体的な悩みを解決していくことも大切ですが、この事業の一番の目的は、音楽の楽しさや音楽にふれる喜びを、先生を通じ、子どもたちに伝えていきたいということです。そのために、先生たちに体験してもらい、その先の子どもたちに伝えていく方法を一緒に考えていく。そんな思いで、アーティストたちと試行錯誤しながら、実際の授業に活かせるようなヒントを盛り込んだプログラムを考えています」と話します。
しかし、現場の先生方の思うアウトリーチと、音楽堂が行うアウトリーチプログラムとの間にずれがあることや、音楽堂のアウトリーチの取り組みが実践の場でどのように活きているのか、参加した先生たちの声を拾えていないことがこれまでの課題だったといいます。そこで企画されたのが、今年8月に実施された「先生のためのアウトリーチ研修会」。音楽教育に関心のある先生たちが音楽堂に集まり、普段のワークショップに加えて、音楽教育の専門家によるアウトリーチについての講演会、参加者全員が参加するグループディスカッションが開かれました。
「これまではエリアごとの教科研究会がメインでしたが、例えば小学校の先生など、音楽が専門教科ではない方々にも参加いただけるよう、個人単位で募集しました。アウトリーチへのフィードバックはもちろん、それ以外の様々な要望にもできるかぎり応えていきたい。私たちが先生たちの相談役のようになっていけるといいなと思っています」
