黄金町バザール

アートとコミュニティーの関係や、アジアとの交流をテーマに、2008年からスタートした「黄金町バザール」。国内外のアーティストが黄金町で制作した、まちとの関わりや地域を反映した作品群に出合えるアートフェスティバルです。2025年は黄金町エリアに、上大岡エリアが加わり、25組のアーティストが作品を展示しました。

取材・文 : 編集部
写真 : 前川俊幸(*を除く)

「黄金町バザール+上大岡バザール2025 通過中 We Meet Along the Way」。
まち×アートのいま・ここにしかない出合い

黄金町バザールを主催する、特定非営利活動法人 黄金町エリアマネジメントセンター(以下、エリマネ)。日ノ出町駅から黄金町駅周辺の地域で、アーティストにスタジオを貸して創作をサポートするアーティスト・イン・レジデンス事業に2009年から取り組んできました。黄金町バザールに参加するアーティストたちは、3ヶ月から数年単位でスタジオに滞在して作品をつくり、会期に合わせて発表します。そのため作品にはまちの“現在”が反映され、まち歩きをしながら作品との出合いを楽しめる体験が、黄金町バザールの魅力になっています。

例えば、スティーブ・フロストさんのスタジオ「ココガーデン」。2‌02‌3年から黄金町にレジデンスをしているスティーブさんは、この場所をアーティスト同士やまちの人との交流の場としても開いています。黄金町バザールでは、ココガーデンの壁一面に大きな白地図(黄金町エリア)を貼りました。観客は目を閉じて、木製のピンを白地図の上に立てるよううながされます。これは実際にピンを立てた場所(建物)へ行き、そこから受けたインスピレーションによって詩を書くミッションが与えられるという、観客参加型の作品でした。

30年以上にわたり、グラスルーツ(民衆の基本的な考え方や文化)のアート活動に携わってきたスティーブさん

黄金町ゆかりのアーティストが上大岡会場とコラボするモデルケースも

上大岡では、黄金町バザールと連携して「上大岡バザール」を開催し、京急百貨店・ウィング上大岡の売場や飲食店、共有スペースなどの空間に作品が展示されました。マップを手に作品を探していくと、日常的な空間のなかに実はアートが潜んでいる、といった状況に驚きました。

百貨店内の1階から3階に移動するエスカレーター横の壁面インスタレーションを手がけたのは、2008年から黄金町エリアに関わりをもち、現在は日ノ出町にある交流スペース「ステップ・スリー」を運営する竹本真紀さんです。「この壁面は、元々古くなって暗い雰囲気があったそうです。作品を展示することで空間の印象が変わり、京急百貨店の皆さんに喜んでいただけました」と話す竹本さん。京急百貨店からの要望を受け、2024年からシーズンごとに絵を替えながらインスタレーションを制作しています。

ウィング上大岡ガーデンコートの机をレコードの盤面に見立てたインスタレーション。ヌラチャマット・ウィディアセナ『Sit, Spin, Repeat #1 – #9』*写真 : Liu Shujia
京急百貨店×黄金町エリアマネジメントセンターによる、2024年から展示の壁面インスタレーション。竹本真紀『めぐるトビヲちゃん』*写真 : Liu Shujia

変化し続けるアーティストコミュニティーとまち

このようにまちと響きあうアートフェスティバル「黄金町バザール」が続いてきた背景には、この地域の歴史があります。2000年代初頭の黄金町エリアには、250軒を超える特殊飲食店舗(いわゆる違法風俗店舗)が立ち並び、生活環境の悪化が地域の課題となっていました。それを受け2003年に地域住民らが発足したのが、黄金町バザール主催者の一翼を担う「初黄・日ノ出町 環境浄化推進協議会」です。2005年には神奈川県警察本部によって違法風俗店舗が一斉摘発。以降、地域住民、小学校PTA、警察、行政、大学、企業などとともにエリマネも、この地域のまちづくりを担うようになりました。

2025年からエリマネの事務局長に就任した山野桂さんは、20‌20年度からエリマネのスタッフとして、まちの人たちとの会議に出席するようになりました。ある時期、まちの人たちから“もうアートでなくていい”といった発言が出るようになったと山野さんはふりかえります。「どういうことだろうと深く聞いていくと、このまちにとってアートがあることは当たり前だから、それ以外のことに目を向けていこうという意図だったんです。地域の方たちにとって、アーティストがいることそのものが日常になっているのを実感しました」。

エリマネには約300人のサポーター(ボランティアスタッフ)が登録しており、この地域のまちづくりを応援しています。活動の中心になっているのが「まちあるきツアー」で、地域の歴史やまちにあるアートを紹介するツアーは、人気プログラムの一つです。2025年は新たな試みとして「黄金町まちあるきガイドスクール」でガイド養成を行い、講座を通して新規メンバーも増えました。サポーターのなかにも、黄金町・日ノ出町エリアに住んでいる方が多くいます。アートへの思いや地域活動への興味など、参加の理由は様々ですが、彼ら・彼女らの活躍にも黄金町バザールとまちの結びつきを感じました。

黄金町バザール2025でのサポーターによるガイドツアーの一幕。高架下スタジオSite-Aギャラリーでキム・サンドの作品を解説するサポーター
サポーターガイドツアーの一幕。過去のバザールで制作されたパブリックアートの壁画の写真を見せながら、「一番古い壁画は?」と観客参加型のクイズ形式で盛り上げました

映像作家の吉本直紀さんが制作した約80分間のドキュメンタリー映画『ユートピア、なるもの―山野真悟と黄金町、次世代横浜アートシーン』には、黄金町バザールのアーカイブとしても貴重なシーンが収められています。吉本さんは2013年から数年間、黄金町バザールのコーディネーターとして、また記録撮影スタッフとしても関わり、その後レジデンスアーティストになりました。長年ディレクターとして黄金町バザールを牽引(けんいん)してきた山野真悟さんは、そんな吉本さんが向けたカメラのなかで、アートとまちの関係について「理解できなくても、影響を与え合うことができればいい」と語っていました。

2025年のテーマは「通過中(We Meet Along the Way)」。アーティストコミュニティーもまちも、誰か来ては誰かが去り、変化していきます。ですがその営みが積み重なり、歴史になっていることを感じた取材になりました。

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日々の生活のなか、まちのなかで芸術文化と出合える...
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