テレビアニメでも人気を博す児童小説を白石加代子主演で舞台化した、リーディングドラマ『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』。今年の4月から6月にかけて神奈川県内4ヶ所をはじめとする全国を巡演したユニークな舞台を、レポートと主演の白石加代子さんへのインタビューで紹介します。
聞き手・文 : 鈴木理映子
公演写真 : 阿部章仁

原作 : 廣嶋玲子『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』(偕成社刊)
出演 : 白石加代子、大原櫻子
台本・演出 : 笹部博司
ダンサー : 蛸島由芽、村上生馬
日程 : 4月19日、20日
会場 : 神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール
主催 : 神奈川県民ホール
※そのほか、11ヶ所をめぐるツアー公演
REPORT
リーディングドラマ『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』は、県民ホールが企画制作した、語りと芝居が織りなす舞台作品です。原作は廣嶋玲子の同名人気児童小説。特別な力をもつ駄菓子を取り揃えた銭天堂には、日々、店主の紅子が回す福引に導かれた幸運な客が訪れます。
舞台版は、銭天堂の客たちの摩訶不思議な体験を、3話にわたるオムニバス形式で描くものでした。1話目は泳ぎが苦手な女の子、真由美が主人公の「型ぬき人魚グミ」。グミのおかげで泳げるようになる一方、危うく人魚になりかける展開はファンタジックでありつつ不条理な怖さも感じさせます。2話目は「猛獣ビスケット」。意地悪な男の子、信也が、盗んだ駄菓子のせいで猛獣に襲われる場面では、二人のダンサーが動物に扮し、ダイナミックな身体表現を披露しました。3話目の主人公は、「おもてなしティー」を使って架空の茶飲み友だちとの交流を楽しむ40代の女性、みどり。最後の一杯が運命の出会いにつながる物語には、大人のファンタジーの味わいがありました。

白髪で恰幅がよく、派手な着物を着た紅子の姿は、アニメ版、映画版でもおなじみですが、白石加代子演じる紅子の存在感はやはり格別。クセのある台詞回しや不敵な笑い声に、客席から歓声が上がることも。すべての客役を演じ、終幕にはライバル店「たたりめ堂」のよどみ役でキュートかつ怪しい魅力を振りまいた大原櫻子の活躍ぶりも強く印象に残りました。
4歳以上が対象ということもあり、客席には親子連れの姿も多く見られました。白石の「語り」が、大原との「芝居」と絡み合い、さらに歌やダンスを織り込みながら物語世界を立ち上げていく、その過程を生の舞台で目撃できるのが「リーディングドラマ」の魅力。この体験はきっと年代を超えて共有され、記憶されていくことでしょう。
インタビュー
白石加代子

―人気の児童文学が原作の舞台だけに、客席にもたくさんのお子さんの姿がありましたね。
お子さんたちはみんな観客としての態度も立派ですし、時々声を上げて笑ってくれたりするのも楽しいし、何かハプニングが起こってもそれはそれでいいなとも思いながらやっています。実は私自身は、舞台の上にいる間はどんな方がいらしているのか、それほどわかってはいないんです。元々、お子さんたちのように弱いもの、可愛いものは大好き。だから、今回はかえって、お子さんの可愛らしい声に引かれて、集中が乱れたりしないように用心して、気にしないようにしています。子どもって合わせようとするとすぐに察知して、下手をするとこっちがばかにされちゃったりもしますから。
―『銭天堂』の舞台化は、企画の出発点から白石さんの紅子役が前提だったそうです。
今までやってきた役柄も、不思議な人や不気味な人が多かったですから、それがこの役をいただくきっかけになっていたとしたら、ありがたいことです。紅子さんは銭天堂にやってきた人に対して、すごく手助けするわけでもないし、そもそも、そんな力ももっていない。でも、そこがいいなと私は思っています。3話目のラブロマンスにしても、どこか思い当たるような物語でしょう? 私の知人は、どんな展開になるか想像がついていながらも、最後は涙したそうです。そういう、誰にでもあるような思いを拾い上げる、ちょっとした魔法が素敵ですよね。

―「リーディングドラマ」という形式は、芝居としての躍動感と、原作小説の言葉や文体を聴く楽しみが絡み合う「発明」だと感じます。
片足は確かにお芝居に踏み込んでいながらも、「本を読む」ことからも足抜けはできない。だから、お芝居をしている間に、元の場所に戻れなくなったりしないように、本にはしっかり「ここに戻る」って印をつけておくようにしています(笑)。また、読むのは、ほとんどが「地の文」になりますが、そこには作家の、神の力が宿っているわけです。だから、普通のお芝居とは違うつくり方をしなくちゃならない面もあります。それもまた楽しいけれど。
―白石さんは、「紅子」としてだけでなく、「語り手」としても舞台上の出来事に対してリアクションします。そこでの大原櫻子さんとのやりとりも、緩急自在で引き込まれました。
櫻子さんは、私がちょっと外れたことをしても絶対にカバーしてくれますし、お互いに作品の全体像をしっかり意識して取り組めていると思います。櫻子さん、賢くて集中力があって、歌もうまいし、一緒にやってて楽しいの。それと今回はダンスの場面もあって、言葉のない身体の表現が、お話とお話の間をつなげてくれるのも、とっても素敵だなと思っています。
―今回の舞台は、紅子をライバル視する「たたりめ堂」のよどみが登場したところで幕を閉じます。ひょっとするとあれは次回作に向けた予告編でもあったんでしょうか。
言われてみればそうですよね。あの対決の続きはどうなるの?(笑) 確かに今回の舞台はメンバーの熱も高くて楽しかった。ただ、次回作の実現は大変だと思います。だって、続編って最初の作品より面白くないといけないものでしょう?(笑)

白石加代子 しらいし・かよこ
1941年生まれ。67年に早稲田小劇場(現SCOT)に入団し、70年『劇的なるものをめぐってⅡ』、74年『トロイアの女』などで世界80都市を巡演。ギリシャ悲劇公演で第1回観世寿夫記念法政大学能楽賞を受賞。SCOT退団後は、映画やドラマなど映像作品にも出演。96年『百物語』、98年『身毒丸』で読売演劇大賞優秀女優賞、2001年『グリークス』『百物語』で芸術選奨文部科学大臣賞、05年春の叙勲で紫綬褒章を受章。23年には演劇界初となる日本芸術院会員に選出される。