藤沢市民オペラ

50年以上の歴史がある「藤沢市民オペラ」は、全国の市民オペラの先駆けとしてひときわ輝かしい存在感を放っています。市政、市民、音楽家が連携し合って地域に豊かな文化芸術の土壌を育てるこのプロジェクトについて、運営スタッフと芸術監督の想いを聞きました。

取材・文 : 原 典子
写真 : 菅原康太(*を除く)

多くの人々がつないできた
市民オペラの歴史

1973年のスタート以来、50年以上の歴史を紡いできた藤沢市民オペラ。プロの歌手、市民オーケストラ、市民合唱団が三位一体となってつくり上げる舞台は、全国からオペラファンが駆けつけるほど高い芸術性を誇っています。公益財団法人藤沢市みらい創造財団で市民オペラの運営に携わっている竹内康仁さんにお話を伺いました。

「芸術監督に園田隆一郎さんが就任した2015年に大きな改変があり、私が本格的に関わるようになったのもその頃からです。それまでは5年に2回というペースで開催してきましたが、2015年以降は3年間を一つのサイクルとして、1年目はプロによる公演、2年目に演奏会形式での公演、3年目に本公演というかたちでオペラを開催してきました。制作の体制としては、企画内容を検討する“藤沢市民オペラ制作委員会”とは別に、芸術監督の選考や評価を行う“藤沢市民オペラ芸術監督選考委員会”を設置し、市民の皆さんにとってわかりやすく、透明度の高い組織で運営しています」

オーケストラは100名近い藤沢市民交響楽団、合唱は藤沢市合唱連盟に加盟する50団体以上の合唱団の選抜メンバーからなる大所帯。市民オペラがスタートした当時から参加している方や、親子二代で参加する方もいるとのこと。そこには市民でつくり上げる舞台だからこその喜びと醍醐味があると竹内さんは語ります。

市民オーケストラや市民合唱団の熱意が、
藤沢の文化芸術の成熟へとつながっていく

第21回藤沢市民オペラ《カヴァレリア・ルスティカーナ》/《道化師》(2010年)
*写真 : 岩﨑 亮

「プロの音楽家のように短期間で仕上げるのではなく、公演の半年以上前からゆっくり時間をかけてつくっていくかたちになります。市民の皆さんは、プロを超えようという意気込みで取り組んでいて、幕が開く瞬間まで努力を重ねています。実際には、前日までうまくできなかったことがいきなり本番でできたり、その逆もあったりしてハラハラしますが、アマチュアだからといって一切妥協しない姿勢が素敵だと思うんですよね。その経験を、各人が普段活動しているオーケストラや合唱団に持ち帰ることで全体の音楽の経験値が上がり、文化芸術の成熟へとつながっていく。それが市民オペラを通して藤沢に連綿と受け継がれているものだと思っています」

2025年11月には神奈川県民ホールとの連携事業としてモーツァルトの《羊飼いの王様》を上演。そして2026年3月に控えているロッシーニ《ランスへの旅》が、市民オペラのスタート時から舞台となってきた藤沢市民会館の建て替えによる休館前ラストの公演となります。

神奈川県民ホールとの連携事業《羊飼いの王様》(演奏会形式/2025年)
*写真 : 阿部章仁

「ちょうど神奈川県民ホールも2025年4月から休館に入り、県内各地で様々な事業を展開されているとのことで、オペラの企画で何かご一緒できないかという話になりました。県民ホール主導で制作された《羊飼いの王様》はプロのみによる公演ですが、市民の皆さまに鑑賞機会をご提供するという意味では、藤沢市民オペラの一環としても位置づけられるものだと思います。そして、市民会館の休館中も、市民オペラのプロジェクトは続いていきます。近隣の会場などで公演を行いながら、新しい市民会館が開館した暁にはこけら落とし公演ができることを目指して、一歩一歩積み上げていきたいです」

本番前はいつもソリスト、合唱、オケの皆さんと軽く目を合わせて、最後に園田さんとも目を合わせて、舞台袖から「行ってらっしゃい」という気持ちで皆さんを送りだしているという竹内さん。これからも市民オペラのバトンはつながれていくことでしょう。

芸術監督の想い

園田隆一郎さん

2015年から藤沢市民オペラの芸術監督を務める指揮者の園田隆一郎さんにもお話を伺いました。

「芸術監督のお話をいただいたのは、大学を出てからイタリアで勉強し、日本とイタリアを行き来しながら仕事を始めた頃。藤沢市民オペラは私にとって、キャリアの初期からともに歩んできたプロジェクトです。プログラミングにおいては《トスカ》や《魔笛》のように市民の皆さんが演奏したい、聴きたいと思うような人気演目を入れつつ、3年間のサイクルの2年目にはロッシーニの作品を取り上げてきました。キャスティングも含め、藤沢でしか聴けないものをつくりたいという思いがあります」

10年間、ほとんど毎週、東京から藤沢の練習場に通っているという園田さん。市民と築いてきた絆の深さは音楽に表れています。

「最初に取り上げたロッシーニの作品がいきなり《セミラーミデ》という大作で、あの時代のイタリア音楽ならではの語法を体得するまでは時間がかかりました。けれど今では、私が何も言わなくても皆さん自然とイタリア的な軽いフレージングで演奏できるようになっていて、本当にすごいと思います。そうすると、ロッシーニと時代の近いヴェルディの《ナブッコ》を演奏する時にも活かせるんですよ」

第24回藤沢市民オペラ《ナブッコ》(2022年)
*写真 : 寺司正彦

今後の展望については、こう語ってくださいました。

「藤沢市民会館が休館中だからこそ拓ける可能性もあると思うんです。藤沢市は広いですから、これからいろいろな場所へ出かけて行って、例えばオペラ以外のオーケストラ曲やミサ曲などにも挑戦できたらと思っています」

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