誰しもが内に秘めている、人間の本質を探求する
ダンサーのアオキ裕キさんが、路上生活経験者らとともに結成したダンスグループ「新人Hソケリッサ!」。2022年からは横浜市・寿町を拠点にした活動を開始。一人ひとりがもつ多元的な表現のあり方を大切にし、様々な環境で生きる人々に向けて、無料のワークショップやパフォーマンスを行っています。アオキさんにお話を伺いました。
聞き手・文 : 折田侑駿 写真 : 加藤 甫(*を除く)
─ソケリッサと寿町の関わりについて教えてください。
ソケリッサのメンバーは路上生活経験者です。だからこれまで、いわゆる“ドヤ街”と呼ばれるところでもパフォーマンスを行ってきました。するとやはり、「自分もやってみたい」という人がいるんですよね。我々の活動を潜在的に求めている人たちがいるかもしれない。そうした考えから寿町を拠点にしました。それに横浜はアートに対して肯定的で、市のにぎわいスポーツ文化局の方がサポートしてくださったりと、すごく協力的なんです。定期的なワークショップとパフォーマンスを行うことで、年齢や経験に関係なく、「踊りたい!」と思ってもらえたらうれしいです。

―アオキさんは「生きることに日々向き合う身体」をテーマにされています。留学先のニューヨークで“9.11”に遭遇した経験が大きく影響しているそうですね。
自分の価値観のすべてが崩壊するほどの衝撃的な体験でした。まち中がパニック状態で、人々の悲しみや怒りの感情であふれている。それまでの僕は一人の表現者として、人間の内側にアプローチしたことがありませんでした。踊りに関しては表面的なかっこよさや、うまくリズムに乗ることばかり考えていた。そんな自分のスタンスに愕然(がくぜん)としましたね。人間は誰しも凄まじいものを内に秘めている。ソケリッサの活動を通して迫ろうとしているのは人間の本質なんです。
—ソケリッサの活動開始から20年が経ちました。今後の展望をお聞かせください。
路上生活をされている方に声をかけ、ある程度のかたちになるまで必死でした。でも今は継続して一緒にパフォーマンスができるメンバーがいて、様々な企画や教育機関などからも声がかかるようになりました。台湾でもインドでも踊りましたし、思い描いていたものが実現している実感があります。それと同時に、このままでいいのかと自問している自分もいる。資本主義のルールのなかで生きていると、どうしても視野が狭くなったり、考えが凝り固まってしまったりするものですから。この2026年にはマレーシアの“プナン”という狩猟採集民の方々のもとに滞在する予定です。そこでまた新たな視点を得られたらなと。
アオキ裕キ(Yuuki Aoki)
「新人Hソケリッサ!」主宰、ダンサー・振付家。
生きることに直面する身体表現を探求。
路上公演を通じ、芸術にふれる機会の少ない人々へ表現を届けている。
2004年NEXTREAM21最優秀賞。
コニカミノルタソーシャルデザインアワード2016グランプリ。
神奈川県立神奈川総合高等学校 舞台芸術科・身体表現非常勤講師。
