夏休みの「アートキャンプ」からアーティストの国際展開のための育成事業まで。2024年下半期も神奈川県では様々な教育普及プログラムが実施されました。
文 : 山﨑健太(批評家・ドラマトゥルク)
教育普及と一口に言ってもその対象も取り組みのあり方も様々です。芸術を使った教育、講座などを通して作品に関する知識を伝えることにより豊かな芸術体験を実現する取り組み、楽器の演奏機会の創出、あるいはアーティストの育成。教育普及活動の多角的な取り組みは芸術体験の裾野を広げるとともに、この社会を生きる一人ひとりがより豊かな文化的生活を送ることのできる未来を実現するものです。
川崎市岡本太郎美術館では川崎市市制100周年記念として夏休み期間の2024年7月20日から9月1日にかけて「芸術は、自由の実験室─夏のアートキャンプ」展を開催。芸術は見るだけではなくすべての人のつくるものであり、子どもたちだけでなく「自由感」を忘れてしまった大人にも有効な「自由の実験室」なのだと言う岡本太郎の言葉を実践するように、来館者が様々なかたちで参加し楽しむことができる展覧会が実現しました。岡本太郎現代芸術賞出身となる4人の作家(國久真有、園部惠永子、西除闇、村上力)が出展し、作品を展示するだけでなく、公開制作やワークショップなどを行うことで、それぞれの芸術的実践を来館者に開きました。
音楽分野では公演に合わせたレクチャーやワークショップが数多く実施されています。神奈川県民ホールで10月に上演されたサルヴァトーレ・シャリーノ作曲『ローエングリン』では、プレ企画として神奈川県民ホール「舞台芸術講座」シリーズ マエストロ・サロン・レクチャー「耳の劇薬 ― あなたもハマるS.シャリーノのささやき」を開催。『ローエングリン』で指揮を務め、シャリーノとも親交をもつ指揮者・作曲家の杉山洋一がシャリーノの魅力を語りました。2025年2月に神奈川県立音楽堂で上演されたオペラ『オルフェオ』の関連企画としては「400年前の音楽に出会おう!リコーダーワークショップ」が11月に開催。ひらしん平塚文化芸術ホールの「【みんな集まれ!オープンシアター2024】楽器はタイムカプセル!?」の一環として実施されたこちらは、『オルフェオ』の出演者とリコーダーの演奏で共演できるワークショップです。聴くだけでなく、背景を知り、あるいは自分で演奏してみることで音楽の楽しみはより一層広がります。
舞台芸術の分野では、コロナ禍で中断を余儀なくされた国際的な活動を改めて促進していくための育成事業が展開されはじめています。国内外の舞台芸術関係者の交流のためのプラットフォームである横浜国際舞台芸術ミーティング(YPAM)は今年から国際交流基金との共催で、将来的にASEAN地域など海外での活躍・協働を目指す日本拠点の若手アーティストを対象にした派遣プログラムをスタート。公募によって選ばれた5名のアーティストを2024年10月にシンガポールに派遣し(私もその一人です)、現地の関係者との交流、関連するプログラムの視察などを実施しました。
2020年6月に横浜市の馬車道にオープンしたDance Base Yokohama(DaBY)も国内外のダンスアーティストの創作のための重要な拠点となっています。2023年度からはレジデントアーティストの公募も実施し、2024年度は18ヶ国75件の応募から国内2組、海外5組のプロジェクトを採択。レジデントアーティストの成果をシェアするショーイングでは、来場者との活発な意見交換も行われています。健全な創作環境を構築するためのフェアクリエイション宣言を掲げるDaBYでは、普段からスタジオを広く一般の見学者にも開いています。

川崎市市制100周年記念「芸術は、自由の実験室─夏のアートキャンプ」展
4人の作家それぞれによる公開制作やワークショップ、トーク、演奏会、サマー・アートスクールと、豊富な関連プログラムで様々な参加の仕方が用意されているのがこの展覧会の魅力。作家それぞれの展示エリアにも来館者の参加型作品が用意されていて、ふらりと訪れただけの来館者も楽しめる、まさに夏休みにぴったりの“自由の実験室”が美術館に出現していました。
会場 | 川崎市岡本太郎美術館
日程 | 2024年7月20日〜9月1日
主催 | 川崎市岡本太郎美術館

〈開館70周年記念〉音楽堂室内オペラ・プロジェクト第7弾 濱田芳通&アントネッロ『オルフェオ』 関連プログラム
400年前の音楽に出会おう!リコーダーワークショップ
「楽器はタイムカプセル!?」のプログラムの一環として、ひらしん平塚文化芸術ホール大ホールの舞台や客席を使って行われたワークショップ。400年前の作曲家モンテヴェルディによって作曲されたオペラ『オルフェオ』の出演者を講師に迎えたプログラムは、リコーダーとハープによるミニコンサートからスタートしました。その後、講師からリコーダーの演奏方法についてのレクチャーを受けた参加者は、最後には丸々一曲をプロの演奏者とともにホールの舞台の上で合奏しました。
会場 | ひらしん平塚文化芸術ホール
日程 | 2024年11月16日
主催 | ひらしん平塚文化芸術ホール

国際交流基金/YPAM共催 2024年度舞台芸術専門家派遣事業(シンガポール)報告会
12月のYPAM期間中、プロフェッショナルの国際的ネットワーキングのための交流プログラムであるYPAMエクスチェンジの一環として行われた報告会では、シンガポール側の協働先であるダニエル・コックも登壇し、派遣アーティスト5名が事業を通して考えたことをシェア。国内からはもちろん、海外からも多数の舞台芸術関係者が来場していて、この事業に対する関心の高さが伺えました。
会場 | フォーラム南太田(男女共同参画センター横浜南)
日程 | 2024年12月4日
主催 | 国際交流基金/YPAM

Tiia Kasurinen『Songbird』ワークインプログレス
2024年度公募レジデントアーティストの一人、Tiia Kasurinenは、DaBYでのレジデンスの成果発表として、2025年4月にスウェーデンでの初演を予定している作品のワークインプログレス公演を実施。コンテンポラリーな振付、音楽制作、およびドラァグの要素を組み合わせたこのパフォーマンスは、声がもつアイデンティティや、声を振付するということ、そして女性性と「もろさ」の関係を探求する取り組みとなりました。
会場 | Dance Base Yokohama
日程 | 2024年11月3日
主催 | Dance Base Yokohama