文化による豊かな交流を
——「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」ドイツに展開

聞き手・文 : 編集部
写真 : 加藤 甫(*を除く)


● 神奈川県 共生共創事業「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」●

「ともに生きる社会かながわ」の実現を目指す神奈川県は、年齢や障がいなどにかかわらず、すべての人が舞台芸術に参加し、楽しめる「共生共創事業」に取り組んでいます。そのなかの一つ「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」(以下、チャレンジ)は、世界の第一線で活躍してきたダンサーの安藤洋子さんが、60歳以上のシニアとともにダンスによる身体表現を探求するプロジェクト。2019年からワークショップをスタートし、2025年3月には休館を控えた県民ホールで『Largo』を上演。

公式サイト


● 芸術の祭典「欧州文化首都」(ドイツ・ケムニッツ市)での創作・発表●

「欧州文化首都」のプロデューサーによる「チャレンジ」の視察をきっかけに、神奈川県での取り組みをモデルケースとした、ケムニッツ市のシニア世代(約50名)とのワークショップが実現しました。2024年から複数回、安藤さん、そして安藤さんと親交がある若手ダンサーが招へいされ、2025年1月に欧州文化首都のオープニングの舞台にシニアとともに出演しました。

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「『チャレンジ』が、海外に行ったという感覚はないんです。どこの国・地域も、抱える問題は同じだと思っていて。良いことではあるけれど高齢者の寿命が延び、世界中でシニアが増えている状況で、シニアがどこへ向かっていくか、どう元気でいてもらうか。『チャレンジ』について最初に神奈川芸術文化財団の眞野純さんからお話をいただいた時も、シニアの孤立を防ぎたいと。そう考えた時、人として年齢を重ねた方たちが、自分自身の身体に向き合い、ここにいることを見つめ直す『チャレンジ』の方法は、一つのモデルケースになります。ケムニッツのプロデューサーとは、やりたいことの方向性が重なったと思っています」

「チャレンジ」のプロジェクトリーダーとして、足かけ6年。シニアの方たち一人ひとりと表現を通じて深く向き合ってきた安藤さんは、今回のドイツでの活動について、そう切り出しました。振付家のウィリアム・フォーサイスのもとでドイツ(フランクフルト)を拠点に15年間、カンパニーのメインソロダンサーを務めたキャリアをもつ安藤さん。いずれ神奈川とケムニッツのシニアが、それぞれお互いの地域を訪れ、交流することを大切にしたいと話します。「歴史的に見ると、日本もドイツも大きな戦争を経験し、自分たちがどう生きていくか、もう一度文化を取り戻していくような部分があるかもしれません。その時に、文化による豊かな交流ができる世の中でありたいと思っています。世の中の今の状況も、分断の傾向があります。だからこそ、今文化による交流によって人と人とがつながっている実感をシニア世代が体現し、次の世代へと残すこと。生き様を見せる責任が、シニア世代にもまだまだあると思っています」。

若い世代とシニア世代が世代の壁を超えて共存していることが大事だと、あらためて実感したと安藤さんは話します。県民ホールで2025年3月に上演した『Largo』には、4歳から85歳までの約80名が舞台に立ちました。県民ホールには、「チャレンジ」のメンバーの身体表現、そして若い世代ならではの身体表現がともにあることで生まれるエネルギーが満ち、50年の歴史に華を添えました。

芸術の祭典「欧州文化首都」でのワークショップ
*Photo: Peter Rossner / Chemnitz 2025 gGmbH

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