パラリンピック式典から 考える共生社会

ダンサー・振付家

森山開次

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認定NPO法人 スローレーベル 理事長

栗栖良依

東京2020パラリンピック競技大会開会式では、障がいのある人もない人も含め約2千人のパフォーマー・スタッフが共にパフォーマンスをつくり上げ、話題を呼びました。

障がいの有無にかかわらず協働する場づくりにどのように取り組み、成功させたのか。ステージアドバイザーを務めた栗栖良依さんと、演出・チーフ振付の森山開次さんに伺いました。

聞き手・文 : 河野桃子 対談写真 : 加藤 甫

─お二人の出会いは?

2017年2月に開催された「SLOW MOVEMENT」 写真:川瀬一絵

栗栖良依(以下、栗栖)
2017年の「SLOW MOVEMENT」(※1)ですね。2月のパフォーマンスに向けて(森山)開次さんに演出・振付をお願いしたことは、当時はまだ駆け出しだった私たちにとって大きなチャレンジでした。自分たちで基礎となるチームをつくったところに、作品としてレベルを上げるためにアーティストに関わってもらうというやり方を試す初めての挑戦でもありました。

森山開次(以下、森山)
その時は僕も、障がいのある方の振付を本格的にやったことがありませんでした。でも栗栖さんは「自由に思いきりやってください」というスタンスでしたし、一緒に創作活動をする“アカンパニスト”(※2)と呼ばれる人たちによるサポートが手厚かった。「今日はこんな方々が稽古に来るから、どこで休憩を入れ、何の稽古を先にやって……」という準備をすべて組んでくださる。おかげでいつもの演出と変わらず一人ひとりと向き合えました。

栗栖
アーティストにはなるべく普段のお仕事をしてもらいたい。そのためにも障がいのある方ならではの特性にどのように対応するかは私たちが担いました。2月のパフォーマンスでは約20人、11月には約100人の多種多様な障がいがあるメンバーで創作しましたが、やっぱり大きな規模だと一人のアーティストがすべてをつくることはできません。育成に力を入れてきた“アカンパニスト”や“アクセスコーディネーター”(※‌3‌)がどう動けば誰もがベストを尽くせるかというインフラづくりが必要で、失敗を重ねてノウハウを築き上げてきました。例えば、開次さんが目指しているところまで出演者の力を引き上げるには、なるべく障がいについての情報は伝えない。伝えてしまうと、開次さん自らがブレーキをかけてしまうから。そのかわり、開次さんのやりたいこととアクセスコーディネーターのすり合わせが重要でした。

森山
僕が「こんなことも、あんなこともできる」と上を目指していくと、アクセスコーディネーターが「今のジャンプはちょっと……」とか「休憩入れてください」と気づいてくれる。だから思いきりやれるんです。

栗栖
私としては、2014年から準備をして2016年のリオデジャネイロのパラリンピックのステージアドバイザーを担当した経験を踏まえて、2017年にやっと「このやり方でなら東京パラリンピックができる」と思えるところまできましたね。

森山
そうですね。この2017年が僕と栗栖さんによるパラリンピックのスタートでした。

一人ひとりが「個」性であること

─パラリンピック開会式だからこそこだわったことは?

栗栖
オーディションですね。誰にでも平等に挑戦の機会を与えたかった。また、個性と同じくらい社会性もみて選考しました。キャスト約700人、スタッフ約1200人もいるので、コミュニケーションは必須。でもいろんな疾患や障がいを抱えていて、ちゃんとリハーサルや本番に来られない障がい者もいるんです。そうしなければならないなかに放り込まれた経験がない人も多い。だから開会式では、舞台に立つだけでなく、社会性を身につけたり、終了後にリーダーとして地域のインクルージョンに貢献してくれたら、と願っていました。えるところまできましたね。

森山
その結果、いろんなリーダーが生まれましたね。障がいのある方だけでなく、健常者のダンサーにも芽吹きがありました。ダンサーは日々身体を通して、年齢や国籍など様々な条件の人が存在していることは実感しているはずですが、特定の「場」のなかで多様性に向き合う経験はあまりない。

栗栖
参加したプロダンサーの9割以上が障がいのある人と踊った経験のない人たちでしたね。あるダンサーは「自分はサポートする側かと思っていたら、みんながとても個性的で『このままでは負ける!』と本気を出した」と言っていました。

森山
目の前にいろんな個性がハッキリと存在していたから「俺って何ぞや?」と闘志を燃やしたと思う。僕もそうでした。多様性に向き合う経験はあまりない。

栗栖
私たちも、その個人が一番輝く見せ方にこだわりましたね。やっぱり「多様性のために車椅子の人を出演させよう」みたいな考えは本当の多様性ではないですから。だから開会式を見た人は、障がい者が約160人もいたことに気づかなかったんじゃないかな。障がいではなく「この人、面白いね」と一人ひとりの個性を楽しめたと思います。今後は、開会式を見て「自分もやってみたい」と思ってくれた人たちの未来につながるようなレガシーとなる企画をつくりたいです。

森山
そのための作戦会議を今、栗栖さんと進めています。

劇場が共生の場となるために

─共生社会のために劇場やホールができることは何でしょうか。

森山
この神奈川には素敵な劇場があり、先日は神奈川県立音楽堂のロビーや階段などで義足のダンサー大前光市くんと二人で踊らせてもらいました。またKAAT主催公演の『不思議の国のアリス』の演出で、KAATほか全国16もの会場でツアーを組んでいただいた時は、KAATの横のつながりがあって実現したのだと思いました。地域の特色がある施設同士のつながりも生かしながら、単なる観光スポットでなく、様々な人が集まれる場所になっていくといいなという期待があります。

栗栖
KAATには全国から人が集うグローカルな強さもありますよね。そのような劇場が先進的な共生テーマのプロジェクトを実施することで、全国に波及していくことも期待しています。

森山開次と大前光市が踊った「Our Glorious Future ~KANAGAWA 2021~」

※1

2015年に総合演出・栗栖良依のもと活動をスタートした、様々な分野のアーティストと、年齢、性別、国籍、障がいの有無を超えた多様な市民が協働して創作する市民参加型パフォーマンスプロジェクト。2017年は、2月と11月に公演を行った。

※2

ダンサーや役者などが多く、年齢、性別、アート経験の有無を乗り越えて関係を築き、創作の可能性を一緒に広げる「伴奏者」として活動に取り組む。物理的・心理的な困難を、創作者という同じ立場で寄り添いながら乗り越える方法を一緒に探り、隠れた創造性を見つけ、引き出し合う。

※3

人や場所によって必要な情報やサポートを行えるよう、個別に状況をよく聞き、参加までの不安やストレスを最小限にする。また、現場での体調や精神状態をチェックし、必要に応じてケアを行う。看護師資格をもつメンバーなどにより、ケアだけでなく、自分の判断で動けるようにサポートしていく。と11月に公演を行った。

栗栖良依 くりす・よしえ


アートの力で異文化の人や企業をつなぐプロジェクトを多く手がける。2015年より障害のある人の舞台芸術におけるアクセシビリティを改善する活動を展開。ヨコハマ・パラトリエンナーレ総合ディレクター。東京2020パラリンピック開閉会式ステージアドバイザー。

SLOW LABEL – スローレーベル

森山開次 もりやま・かいじ


神奈川県出身。2005年ソロダンス『KATANA』でニューヨーク・タイムズ紙に「驚異のダンサー」と評され、2007年ヴェネチア・ビエンナーレ招聘。2013年芸術選奨新人賞、文化庁文化交流使。2021年東京2020パラリンピック開会式演出・チーフ振付。

公式サイト

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