「わからなさ」を受け入れるという体験は、共生社会の醸成につながっている――
映画監督/脚本家 濱口竜介

東京藝術大学大学院修了制作としてつくられた映画『PASSION』には、横浜の街並みが映し出されています。
映像研究科への入学から神奈川県との縁が深くなったと語る濱口竜介監督に、映画館という場の可能性や共生社会について伺いました。

聞き手・文:小原明子(slowtime design) 写真:菅原康太

―濱口監督は深田晃司監督と共に発起人となり、ミニシアター・エイド基金(※1)を立ち上げ、約3万人からの支援を集めました。プロジェクトを通して再認識した「映画館という場の可能性」はありましたか?

映画館は多くの人にとって、「人生の軸」となるような深い体験を得られる場であることを可視化したプロジェクトでした。特にミニシアターでは、様々な国や年代、テーマを捉え、「わかりやすさ」とは対照にある多様な映画に触れることができます。「わからなさ」を受け入れるという体験は、共生社会の醸成につながっているのではないでしょうか。また、映画館は「自分とは違う他人」の「違う感じ方」を目の当たりにする場でもあります。「他者と違うままにいられる」という意味での可能性もあるように思います。

―『ドライブ・マイ・カー』(※2)では、手話も含めた異なる言語でセリフを言い合う多言語演劇が取り入れられていたことが印象的でした。

多言語演劇では、役者が相手の言葉を十分に理解できないため、高い集中力で接していないと演技ができない状況が生まれます。俳優には、対話における“身体の反応”を大切にした演技をしてもらいたかったので、この方法を取り入れました。手話は「嘘をついたらバレてしまう」と感じるほど、相手をよく見る必要があるコミュニケーションです。より率直な表現が含まれていると思い、言語の一つとして扱いました。

©️2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

—一方で、多言語の人と共に制作する過程には、多くの困難が伴ったのではないかと想像するのですが。

異なる言語のコミュニケーションを成立させるのは、やはり大変なことです。本作でも、一つひとつの言語を通訳する膨大なプロセスがありました。「多様な人が共生する社会」を実現するためには困難や痛みも伴うし、実現しようとする側の覚悟も必要です。その共通認識をもつために議論を重ねていくことが、今求められているのではないでしょうか。

※1

新型コロナの拡大、そしてそれに伴う自粛要請によって経営のひっ迫している小規模映画館を支援することを最大の目的としたプロジェクト。

※2

村上春樹の同名短編小説を、濱口竜介と大江崇允が共同で脚本を執筆し映画化。第74回カンヌ国際映画祭 脚本賞ほか、全4冠を獲得した。2022年1月現在、全国で公開中。

濱口竜介[はまぐち・りゅうすけ]


2021年『ドライブ・マイ・カー』で第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門脚本賞ほか3賞を受賞。同年に第71回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した『偶然と想像』はBunkamuraル・シネマほかで12月17日より全国公開。

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