バレエ

バレエの起源はルネッサンス期のイタリアとされ、宮廷での余興でした。16世紀になるとフランスに伝わり、舞台舞踊として開花します。19世紀前半から半ばに西欧でロマン主義の影響を受けたロマンティック・バレエが栄え、19世紀後半にロシアで古典的様式美を伴うクラシック・バレエが確立します。バレエ=舞踊劇は、劇場芸術の華。20世紀初頭にはバレエ・リュス※1が従来の様式を革新し、現在も先鋭的な舞踊を取り込むなど発展を続けています。

※1

セルゲイ・ディアギレフが主宰し1909年から1929年に活動したバレエ団。20世紀の芸術に大きな影響を及ぼした

県民ホールの年末の風物詩『ファンタスティック・ガラコンサート2‌02‌3』が2023年12月29日に開催されました。オペラ、バレエ、オーケストラの魅力を一挙に楽しめる人気公演です。本公演に出演したバレエダンサーの上野水香さんに、バレエの魅力や身体を通して届ける「声」についてお話を聞きました。

取材・文 : 高橋森彦
公演写真 : 長谷川清徳

神奈川県民ホール 年末年越しスペシャル

ファンタスティック・ガラコンサート2023

指揮・お話 : 三ツ橋敬子
ソプラノ : 青木エマ
テノール : 城 宏憲
バリトン : 三戸大久
バレエ : 上野水香(東京バレエ団) 厚地康雄 ブラウリオ・アルバレス(東京バレエ団)
ヴァイオリン : 石田泰尚
ピアノ : 中島 剛
オルガン : 中田恵子(神奈川県民ホール オルガン・アドバイザー)
管弦楽 : 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
コンサートマスター : 大江 馨
演出(トスカ) : 舘 亜里沙
日程 : 2023年12月29日
会場 : 神奈川県民ホール
主催 : 神奈川県民ホール

REPORT

『ファンタスティック・ガラコンサート2023』のテーマは「愛の抱擁」でした。指揮・お話は三ツ橋敬子、管弦楽は神奈川フィルハーモニー管弦楽団。

オペラではプッチーニ作曲『トスカ』ハイライトを上演。トスカを青木エマ、カヴァラドッシを城宏憲、スカルピアを三戸大久が務め、劇的な愛憎劇を濃密に歌い上げました。

バレエでは、チャイコフスキー作曲『白鳥の湖』を披露。前半に第2幕 アダージョを上演しましたが、演奏をオーケストラではなく、ヴァイオリンの石田泰尚、ピアノの中島剛が務めて新鮮でした。上野水香が白鳥オデットを、厚地康雄が王子を踊り、指先まで神経の行き届いた繊細な踊りから愛の会話が浮かび上がります。そして後半に第3幕 黒鳥のパ・ド・トロワを披露し、黒鳥オディールの上野、王子の厚地、悪魔ロットバルトのブラウリオ・アルバレスの妙技とともに愛や思惑が交錯し、ドラマは最高潮に達しました。

バレエはオペラ同様にクラシック音楽において演じられる総合芸術ですが、歌声を用いないバレエの魅力とは何でしょうか。『ファンタスティック・ガラコンサート』に接すると、バレエがいかに身体表現を突き詰めた芸術形態であるかという事実を肌で実感できます。躍動する美が物語るドラマであるバレエの妙味を再発見しました。

上野水香インタビュー

―バレエならではの魅力とは?

バレエの一番の特徴は、オペラやミュージカルとは違って台詞がないことです。私たちが舞台で何か同じ所作や仕草をしても、人によって受け取り方は千差万別です。足の出し方一つとっても、作品・役柄によって心情がそれぞれ違うので、表現する側としても無限大の可能性を秘めています。言葉で直接的に語る方がわかりやすいかもしれませんが、言葉がない分、奥の深さや広がりがあって、心により深く訴えかけることができるのではないでしょうか。言葉がないという壁を感じる方がいらしても、一度体験してもらえるとこういうものなんだなと魅力をわかってくださると思うので、ぜひ足を運んでいただきたいですね。

―バレエダンサーが身体を通して「声」を発する際、どのような感覚がありますか?

作品にもよりますが、ドラマティックなバレエ、例えば『ジゼル』(音楽 : アダン)を踊る場合、ジゼルの人生そのものを生きています。人物関係や物語の背景がはっきりした作品なので、舞台の上で「生きて踊っている」という感覚があります。狂乱する場面では、激情が本当に「声」として伝わるのではないでしょうか。いっぽう、ベジャールの『ボレロ』(音楽 : ラヴェル)の主役メロディを踊る場合、何かを伝えるというよりも私自身が作品のなかに入り込むんですね。音楽そのものを視覚化して届けている感覚があります。

―『ボレロ』のメロディを2004年から国内外で幾度も踊られていますが「年齢や環境、世の中の状況がおのずと踊りに反映されてくる」そうですね。

私が『ボレロ』を踊ると、観客の皆さんが喜んでくださいます。私自身何が伝わっているのかわからないのですが、何かしらの「声」を届けているのかもしれません。言葉にならない声です。それを感じた方々が感動してくれます。コロナ禍で奇跡的に上演できたときは、私たちとお客さまが皆で同じ思いを共有しているという確信と特別感がありました。

―客席に身を差し出して踊り、エネルギーを交感しているということですか?

私は、自分が踊っていいんだ、踊るべきなんだと周りに気づかされながらバレエを続けてきました。つらくてもうやめたいと思うと「舞台を観て元気になった!」とお客さまが喜んでくださいます。皆さまからの「声」に生かされているから舞台で何かを捧げたいんです。「人の何かになれる」というのが、私の踊る意味、生きる意味、存在意義につながります。ただただ能動的に踊るのではなく、観てくださる方々から届く「声」を感じて踊っています。

―今後の展望をお聞かせください。

令和5年秋の褒章で紫綬褒章をいただいたこともあり、バレエに携わっていくことが使命だと感じるようになりました。今後ずっと現役で踊り続けていくことはないでしょうし、自分が何をできるのかは刻々と変わっていきますが、バレエの「声」を皆さんに届けられる存在でありたいと願います。私はずっと一流を追求してきたので、一流を目指す若いダンサーの手助けもしたいですね。本物の舞台をつくる存在になりたいです。


ファンタスティック・ガラコンサート 2024
12月29日開催決定!

県民ホール休館前、最後のファンタスティック・ガラコンサート。指揮・三ツ橋敬子さん、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、上野水香さんなどおなじみの出演者で贈ります。どうぞお楽しみに!


写真 : 菅原康太

上野水香 うえの・みずか
(東京バレエ団 ゲスト・プリンシパル)


鎌倉市出身。かながわ観光親善大使。5歳よりバレエを始め、1993年、ローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップ賞を受賞後、モナコに留学、首席で卒業。2004年東京バレエ団にプリンシパルとして入団して以来、世界のトップダンサーとして踊り続ける。
モーリス・ベジャールに『ボレロ』の指導を直接受けた最後のダンサーであり、『ボレロ』を踊ることを許された世界でも数少ない女性ダンサーの一人。令和5年秋、紫綬褒章を受章。
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