2021年度のダンスプログラムをふりかえる

神奈川における2021年度上半期(4~9月頃)のダンス公演をふりかえってみましょう。
コロナ禍と緊急事態宣言によって大きな制限を受けつつも、アーティストと関係者の努力と創意でいくつもの公演が実現しました。

文:乗越たかお(作家・ヤサぐれ舞踊評論家)

神奈川におけるダンスの拠点といえば横浜赤レンガ倉庫号館でしょう。ここで開催される「ヨコハマダンスコレクション」は1996年開始から日本のダンス界を支え、世界とつなげてきました。例年2月開催でしたが、今年度から「YPAM – 横浜国際舞台芸術ミーティング(旧TPAM)」とともに月への移行が発表されました。他にも様々な自主企画のダンス公演を行っています。

KAAT神奈川芸術劇場は、4月1日より新芸術監督に長塚圭史が就任しました。ダンス公演も豊富で、この上半期でもDance Dance Dance@Yokohama 2021(以下「DDD」)の『エリア50代』、Dance Base Yokohama(以下「DaBY(デイビー)」)のイスラエル・ガルバン公演のほか、北村明子演出振付のキッズ・プログラム2021『ククノチ テクテク マナツノボウケン』は広い世代に好評で、鬼才・岡田利規による新作能ながら『未練の幽霊と怪物—「挫波」「敦賀」—』では森山未來と石橋静河のダンスが話題になりました。­­

「DDD」は3年に一度開催される、我が国でも最大規模のダンスの祭典です。プロの舞台はもちろん市民参加の企画も充実。ストリートや商業施設の広場など、まち全体が会場になります。『横浜ベイサイドバレエ』では象の鼻パークに特設舞台をつくりました。潮風の中で、遠くに豪華客船の汽笛を聞きながら『ギリシャの踊り』『「海賊」より パ・ド・トロワ』『ボレロ』を鑑賞する、格別な体験となりました。

今回のDDDは世界的に活躍するダンサー小林十市がディレクターに就任。小林の実の兄弟である落語家・柳家花緑の『おさよ(落語版ジゼル)』の語りと東京シティ・バレエ団の『ジゼル』の共演という画期的なプログラムも実現しました。他にも山本康介の構成・演出で新旧ダンスの珠玉のプログラムを揃えた『International Choreography × Japanese Dancers 〜舞踊の情熱〜』や、DDD初のグランド・バレエ公演として東京バレエ団『白鳥の湖』も行われました。

そして新しく「プロフェッショナルなダンス環境の整備とクリエイター育成に特化した事業を企画・運営するダンスハウス」として開場した「DaBY(デイビー)」も注目を集めました。アーティスティックディレクターの唐津絵理の下、ダンサーへの様々なクリエイション支援はもちろん、法律相談やセミナー、「ダンスのアクセシビリティを考えるラボ ~視覚障害者と味わうダンス観賞篇~」など、日本のダンス環境そのものの改革にも取り組んでいます。

コロナ禍に対応するために、配信事業にも多くの挑戦がありました。
「Our Glorious Future ~KANAGAWA2021~」(※1)は様々なジャンルのアーティストが映像作品を配信するプログラム。ダンス部門は森山開次のディレクションで進められました。
横浜能楽堂では、館内を自由に見てまわる「バーチャル能楽堂」や「施設見学会」のほか、「バリアフリー能」公演動画も期間限定で公開しました。
神奈川県の60歳以上のシニアの皆さんと、ダンサーの安藤洋子が新たなダンス表現を創り出す「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」プロジェクトでは、成果発表として2本の映像作品を公開しました(2021年3月)。
また『ダンス縁日2021スペシャルライブ 象の鼻ナイトミュージアム vol.2 -兆し-』では「観客は屋外」「演者は室内」と分け、コロナ禍を逆手に取る演出が生まれました。

※1

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式文化プログラムとしてオンラインで開催。正式名称は『東京 2020 NIPPONフェスティバル「ONE –Our New Episode- Presented by Japan Airlines」Our Glorious Future 〜KANAGAWA 2021〜 カガヤク ミライ ガ ミエル カナガワ 2021』。

『A JOURNEY 〜記憶の中の記憶へ』 写真:瀬戸秀美

「Dance Dance Dance@ YOKOHAMA 2021」

KAAT神奈川芸術劇場では金森穣率いるNoism Company NiigataとDDDディレクター小林十市……モーリス・ベジャールの「兄弟弟子」ともいうべき二人が出会った『A JOURNEY 〜記憶の中の記憶へ』。そして『エリア50代』では、近藤良平と小林十市が日替わりでゲストを招き、今なお第一線で踊り続ける50代のダンサーたちのリアルを描きました。


会場|横浜市内全域
日程|2021年8月28日~10月17日
(プレ期間=5月1日~8月27日、
ポスト期間=10月18日~11月30日)
主催|横浜アーツフェスティバル実行委員会
公式サイト

「Our Glorious Future ~KANAGAWA 2021~」

「共生社会の実現に向けて」をテーマに、神奈川県にゆかりのある様々な分野のアーティストが参加し、作品は世界へ配信されました。ダンス部門ディレクションはダンサー・振付家の森山開次。 ひびのこづえ(衣装)、川瀬浩介(作曲家・美術家)との協働で、骨や内臓をモチーフにコミカルな表現で国内外で上演を重ねる「LIVE BONE」シリーズに、義足のダンサー・大前光市を招き、前川國男の代表建築・神奈川県立音楽堂で撮影した新作を含む6本の映像が公開されています。


会場|オンライン
日程|2021年8月から順次公開
(現在 http://www.pref.kanagawa.jp/docs/yi4/portal.html にて公開中)
主催|神奈川県、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

『WOLF』 写真:加藤 甫

神奈川県立青少年センター
紅葉坂ホール・スタジオHIKARI

紅葉坂ホールはDDDの落語版ジゼル『おさよ』を上演。スタジオHIKARIでは、若手の挑戦的な作品上演が続いています。平原慎太郎率いるOrganWorksの『WOLF』は狼を通して生命の本質に迫る作品。中村蓉『ジゼル』は、バレエの古典『ジゼル』にソロで挑戦しました。自身も日本舞踊の名取である中川絢音率いる水中メガネ∞のコンテンポラリー・ダンスと、日本舞踊家の藤間涼太朗と花柳寿紗保美の協働『しき』も新しい可能性を示しました。


住所|神奈川県横浜市西区紅葉ケ丘9-1
公式サイト

『great journey 5th』 写真:菅原康太

横浜赤レンガ倉庫1号館

『great journey 5th』は、コンドルズの近藤良平とハナレグミの永積崇が、世間話をしながらゆるゆるとダンスと音楽の時間が過ぎていく好評シリーズ。「これぞソーシャル・ディスタンス・パフォーマンス!」と絶賛を浴びた月灯りの移動劇場『Peeping Garden/re:creation』は、観客が一人ずつ半個室の壁の覗き穴からパフォーマンスを見守る作品です。そして『表現者たちーLiBERATiON』では世界的タップダンサーの熊谷和徳が日替わりゲストを迎えて熱演しました。


住所|神奈川県横浜市中区新港1-1-1
公式サイト

『春の祭典』 写真:羽鳥直志

Dance Base Yokohama(DaBY / デイビー)

革新的なフラメンコで評価の高いイスラエル・ガルバンを招聘し『春の祭典』をKAATと愛知県芸術劇場で公演。さらに横浜市役所アトリウムで『SOLO』を上演しました。
TRIAD DANCE PROJECT「ダンスの系譜学」は、『振付の原点』と『振付の継承/再構築』を併演することで、ダンスの系譜をリアルに探る企画。中村恩恵・酒井はな・安藤洋子がそれぞれ原点となった作品と新作を一挙に踊る横浜トライアウトを上演しました。


住所|神奈川県横浜市中区北仲通5-57-2
KITANAKA BRICK&WHITE BRICK North 3階
公式サイト

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