2022年下半期の演劇プログラムをふりかえる

長引くコロナ禍のもと、様々な苦労を重ねながらも県下の演劇活動は続いています。

ここでは2022年下半期に上演された、歴史や地域に向き合う作品、シニア劇団の公演をご紹介します。

文 : 鈴木理映子(編集者・演劇ライター)

KAATの2022年のシーズンタイトルは「忘(ぼう)」。せわしない日々のなかで足を止め、忘れてはならない記憶、歴史と向き合おうとする姿勢は、敗戦後の混乱を生き抜く女たちの哀しみと逞しさを描く溝口健二の同名映画のミュージカル版『夜の女たち』、沖縄在住の若手劇作家・兼島拓也が書き下ろした『ライカムで待っとく』といった作品にも鮮やかに反映されていました。とりわけ後述するYPAMの連携プログラムでもあった『ライカムで待っとく』は、2022年に本土復帰50年の節目を迎えた沖縄と本土との間に今もあり続ける溝、その不条理を、SFミステリー調の展開で観客に体感させ、高く評価されました(6ページ参照)。

「YPAM–横浜国際舞台芸術ミーティング」は、実演芸術の創造、国際交流に携わるクリエイター、制作者が集う、アジア随一の交流拠点です。今年は、コロナ禍のもと強化されてきたオンラインでのコミュニケーションツールに加え、実際に顔を合わせての対話が可能なミーティングポイント、Amazon Clubも復活し、様々な出会い、議論の場として機能しました。また、会期中に上演された4つの主催公演のうち、横浜中華街に関わる人々に取材し、共につくりあげたダンス作品『ジャスミンタウン』は2021年のYPAM、ファイブアーツセンター(マレーシア)による『仮構の歴史』は、TPAM2019 (現・YPAM)でのワーク・イン・プログレス公演を発展させたもので、(新型コロナの影響による公演中止、上演形態の変更はありましたが)新たに企画されたオル太『ニッポン・イデオロギー(仮)』のワーク・イン・プログレス公演とも併せ、地域や歴史と向き合った継続的な取り組みの意義を感じさせました。

なお、YPAM会期中には、無審査・公募制のフェスティバル「YPAMフリンジ」も開催。そのなかでも、小劇場演劇やコンテンポラリーダンスの若手の公演を多くラインアップするSTスポットで上演されたチーム・チープロ『京都イマジナリー・ワルツ』は、リサーチによるテキストと映像、目の前に立つパフォーマーの存在が織りなす「体験」が印象的な作品でした。同劇場では振付家の木村玲奈と演出家の萩原雄太による共同リサーチ「ダンスと演出」とその報告会も行われており、今後もジャンルにとらわれない表現が生まれてくることでしょう。

また、伊勢崎町商店街と大岡川の間に位置し、スタジオ、宿泊施設、劇場を併設するアートセンター、若葉町ウォーフは、2022年で開場5周年を迎えました。12月に予定されていた記念企画の第2弾、波止場のひとり舞台『森の直前の夜』(佐藤信演出)は中止となってしまいましたが、街に根を張りながら、様々な文化を受け入れ、発信するプラットフォームとしての存在感に変わりはありません。

年齢や障がいなどにかかわらず、子どもから大人まですべての人が、舞台芸術に参加し楽しめる県の共生共創事業。そのシニアプロジェクトとして始動した、横須賀シニア劇団「よっしゃ!!」、綾瀬シニア劇団Haleは、約2年半ぶりの有観客上演を実現。小田原シニア劇団チリアクオールディーズも2023年の年明けに初の有観客上演を行いました。長引くコロナ禍による活動制限を経てなお(経たからこそ)、前向きに演劇を楽しむ姿に勇気づけられます。

写真 : 細野晋司

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース

ミュージカル『夜の女たち』

戦後の混乱期の夜の街を背景に、「転落」を強いられながらも生き抜く女性たちを描いた溝口健二の同名映画をミュージカル化。敗戦を経た男たちが抱く潜在的な恐れや不安、いともたやすく社会の周縁に追いやられる女たちの立場に着目した巧みな構成で、骨太な題材とミュージカルとしてのエンターテインメント性を両立させました。


会場 | KAAT神奈川芸術劇場 ホール
日程 | 2022年9月9日~19日
   (新型コロナの影響で9月3日〜8日は中止)
主催 | KAAT神奈川芸術劇場
公式サイト

写真 : 前澤秀登

ファイブアーツセンター

『仮構の歴史』

かつて、マラヤ連邦の独立を巡り、武装闘争を繰り広げたマラヤ共産党の元党員たち。彼らのインタビューを出発点に、その後のマレーシアの歴史教科書における記述が紐解かれます。語られず、時には書き換えられ、消去される出来事、人々の記憶。歴史の空白と、上演中床に施されるライブペインティングが二重映しになり、私たちの生きる現在に鋭い問いを投げかけました。


会場 | BankART KAIKO
日程 | 2022年12月14日〜17日
主催 | 横浜国際舞台芸術ミーティング実行委員会

写真 : 岡 はるか

チーム・チープロ

『京都イマジナリー・ワルツ』

西洋化の象徴としての「ワルツ」が、男性客のための遊びになり、やがて猥褻なものとして禁じられていく過程を映像やテキストで示しつつ、観客との想像上のペアダンスを試みる実験作。三拍子を奏でる鴨川の水音を介し、共鳴し合いながらも、触れ合うことはないパフォーマーと観客の不安定な関係が、現代の身体のありようを照らし出しているようでした。


会場 | STスポット
日程 | 2022年12月1日〜5日
主催 | チーム・チープロ
公式サイト

横須賀シニア劇団「よっしゃ!!」

『いっしょに行こう…ネ!〜三部作〜』

電車の中の風景を起点にした2作と、人の生涯を見守る杉の木の物語の3本立て上演は、どれもメンバー自ら台本も手がけただけあって、内容も登場する人々の佇まいも、ごく身近で親しみやすいものでした。歌や踊りを交えた構成も明るく前向きで、演劇を通じて日々の暮らしを楽しむ姿勢が伝わってきました。


会場 | 横須賀市立青少年会館ホール
日程 | 2022年7月9日~10日
主催 | 神奈川県 横須賀シニア劇団「よっしゃ!!」
公式サイト

Share this
Key phrase

Latest Feature

よりよい社会へ

「よりよい社会」とはどんな社会でしょう。 ...
spot_img

Recent articles

関連記事