「舞台裏」で公演を支えるスタッフの「技術」をお伝えする本コーナーの第2回は、音楽堂の室内オペラ・プロジェクト『シャルリー 〜茶色の朝』(以下『シャルリー』、2021年 10月30、31日 日本初演 )で日本語字幕を担い、作曲家とのトークセッションでは通訳も担当した加藤リツ子さん。字幕制作という仕事について語っていただきました。
聞き手・文 : 猪上杉子
—どのように字幕をつくっていくのか教えてください。
まさに裏方の仕事なので、私が顔を出してお話をするなんてとても緊張します(笑)。『シャルリー』の場合は日本初演でしたが、フランス語での上演は行われていましたので、まずはスクリプト(台本)や歌詞を手に入れます。そして記録映像などを見ながら、「ハコ」と呼ばれる文章に区切っていきます。どこで息を継いでいるか、メロディの流れはどうかなどと照らし合わせて行う重要な作業です。45分ほどの『シャルリー』で約130枚(「枚」と数える)の「ハコ」になります。同じ言葉数でも喋る速度や歌うテンポによってその字幕が表示される秒数(いわゆる「尺」)は違ってきますから、一つひとつの「ハコ」の秒数を計ります。その「尺」に合わせて字幕を付けていくわけです。
—字幕制作で苦労するのはどんなことですか?
なんといっても「尺」との闘いです。人の目が読んで理解できるのは1秒間に4文字と言われます。表示される間に読み切れること、限られた文字数で意味がわかることが何より大事なことです。ですから美しい言葉遣いにしよう、自分なりに凝った表現を考えよう、とは決して思わないように心がけています。
—舞台通訳もされますが、通訳と字幕制作は異なる姿勢で臨むのですか?
通訳と字幕制作の両方に携わる人は珍しいようですね。限られた字数でわかりやすく伝える字幕と、演出家の意図や考えを俳優や歌手にくまなく伝える通訳。一見正反対のように見えますが、どちらも日本人のためにその作品の内容を届ける橋渡しの役目だと思っています。
通訳・字幕制作者
加藤リツ子[かとう・りつこ]
舞台通訳(仏語)および舞台や映像の字幕制作(仏語・英語)を手がける。舞台字幕では太陽劇団『堤防の上の鼓手』、ルパージュ演出『887』、ジネール作曲オペラ『シャルリー 〜茶色の朝』など。映画の字幕も多数制作。映像好きが高じ、仏企業の役員秘書から転身した。