聞き手・文 : 猪上杉子
県民ホール「C×(シー・バイ)」シリーズから、過去の偉大な作曲家 (Composer) と、今を生きる気鋭の作曲家(Composer)が交錯する「C×C作曲家が作曲家を訪ねる旅」を紹介します。その第2回「川上統×サン=サーンス」は2022年1月8日に催され、川上さんの委嘱新作が、没後100年を迎えたサン=サーンスの『動物の謝肉祭』と交差しました。動植物を題材にした楽曲が多いことで知られる川上さんですが、『動物の謝肉祭』と対峙して、同規模の楽器編成(打楽器は増強)で書かれた『ビオタの箱庭』はどんな作品になったのでしょう。
川上統作曲
組曲『ビオタの箱庭』
- サスライアリの行進
- ジュゴンとマナティー
- シフゾウ
- ミツオビアルマジロ
- バオバブ
- トビネズミ
- ウォードの箱
- フラグミペディウム・コーダタム
- コトドリ
- キヌガサタケ
- コンドロクラディア・リラ
- ラティメリア
- ワタリガラス
- レミングの行進
サン=サーンス作曲
組曲『動物の謝肉祭』
- 序奏とライオンの王道行進曲
- 雄鶏と雌鶏
- エミオーネ、または高速な動物たち
- 亀
- 象
- カンガルー
- 水族館
- 耳の長い登場人物
- 森深くのカッコー
- 鳥舎
- ピアニスト
- 化石
- 白鳥
- 終曲
「『動物の謝肉祭』というお題を与えられた時は、これまで生物を音楽にしてきたので、これは自分に課せられた使命だと感じました。14曲それぞれに呼応した曲を書くことは、制約と可能性の両方向のベクトルをもつ体験となりました。『雄鶏と雌鶏』に対しては『ジュゴンとマナティー』、『象』には『バオバブ』、『カッコー』には『コトドリ』、有名な『白鳥』には白黒反転させる意図で『ワタリガラス』となりました。」
「サン=サーンスへの旅」を終えて見出したものについても尋ねてみました。
「作曲する際、完成形を彫り込んでから書くことが常だったのですが、今回は決まったかたちのなかに粗彫りの直感的な願望を入れていく作業となり、それが思いのほかスムーズにいったのは、サン=サーンスの明朗なイマジネーションに励まされたからと感謝しています。各曲のキャラクターを書き分ける創造性の発揮は、彼にとってもそうだったのだろうと勇気づけられる思いでした。彼の『水族館』と私の『ウォードの箱』には、予想していた以上にガラスケースの透明感という共通性が現れて、自分でも驚きました。」
1世紀の時を隔てた二人の作曲家の対置から、過去、現在、未来が一つにつながる音楽体験を味わうことのできたコンサートとなりました。
川上 統[かわかみ・おさむ]
1979年、東京生まれ。広島在住。作曲作品は170曲以上にのぼり、組曲『甲殻』をはじめ曲名に生物の名がつく作品が多い。チェロやピアノや打楽器を用いた即興も多く行う。2003年第20回現音新人作曲賞受賞。2009、2012、2015年武生国際音楽祭招待作曲家。エリザベト音楽大学専任講師、国立音楽大学非常勤講師。
サン=サーンスの組曲『動物の謝肉祭』はどんな音楽?
1835年パリに生まれ、1921年86歳で没したカミーユ・サン=サーンス。オペラ、交響曲、協奏曲、室内楽、オルガン曲など幅広い分野に何百もの作品を残した。本作品は14の小曲からなり、室内楽曲として作曲された。ピアノ2台・弦楽器・フルート・ピッコロ・クラリネット・グラスハーモニカ・シロフォンという変則的な楽器編成で、風刺精神、パロディやユーモアがあふれる。