CⅹC作曲家が作曲家を訪ねる旅 ―作曲家・山根明季子がジョン・ケージを訪ねて

聞き手・文 : 猪上杉子

神奈川県民ホール「C×(シー・バイ)」シリーズから、過去の偉大な作曲家(Composer) と、今を生きる気鋭の作曲家(Composer)が交錯する「C×C作曲家が作曲家を訪ねる旅」を紹介します。その第3回「山根明季子×ジョン・ケージ」は 2022年9月10日に開催され、独自の作曲技法やテーマ性が高く評価されている山根さんが、生誕110年、没後30年を迎えたジョン・ケージと交錯しました。もともとケージには共感を抱き影響を受けていたという山根さん。ケージと対峙して、二つも新作を初演した今回のコンサートはどのような機会になったのでしょう。

この日演奏されたのはジョン・ケージを3曲、山根明季子を3曲。まず演奏されたケージの《ザ・ビートルズ1962-1970》では事前に録音された音に生演奏が重なり、ケージの「同時多発性」が躍如となります。続いて初演された山根さんの《状態 No.3》はケージに呼応して、同じく「同時多発性」がテーマの作品。実は言葉だけの指示(=テキストスコア)で書かれていて、楽譜上には「(奏者が選んだ)任意の既成楽曲を複数同時に演奏する」と指示されているのだそう。

「《状態 No.3》は私は一音も楽譜を書いていません。テキストスコアも実験音楽の手法にのっとったもので、ケージの《4分33秒》も音符を一音も書いていない作品です。ケージに敬意を示しながら、私のやりたいことにチャレンジできたのは大きな機会でした。」

ケージの《セブン》は7人の演奏者による「不確定性」の音楽。最後に演奏された山根さんの《カワイイ^_-☆d》もまた「不確定性」を描いたそうですが、どのように関連しているのでしょう。

「ケージはサイコロの目で演奏するなど恣意性の排除にフィーチャーしましたが、私がフィーチャーしたのは『感覚』。楽譜の軸となる部分にはテキストで『カワイイと主観的に感じる音を出す』と書きました。そこに五線で書かれた私の主観による様々なカワイイ音の提案が続きます。ケージとの『二人展』だからこそ際立たせることができた試みです。」

会場はジョン・ケージを知る世代から、10代まで様々な年代が集い、刺激的な音楽体験に没入した高揚感で満ちました。

公式サイト

写真:大野隆介
山根明季子《カワイイ^_- ☆d》の楽譜と、この曲で「打楽器」として使用された山根さんの私物のオモチャの犬
写真 : 大野隆介

山根明季子[やまね・あきこ]


1982年大阪生まれ。京都市立芸術大学大学院修了。
ブレーメン芸術大学派遣留学。物質、空間、サブカルチャー、ゲーム、デジタル表現などから影響を受け、消費社会やポップ、抑圧などをテーマとして作曲活動を続ける。美術館などでのパフォーマンスやキュレーションなど活動は多岐にわたる。


ジョン・ケージ(1912-1992)はどんな作曲家?

1912年ロサンゼルスに生まれ、作曲家としてばかりでなく、詩人、思想家、キノコ研究家としても活躍した。「実験音楽」を掲げ、「チャンス・オペレーション」による作曲、「不確定性の音楽」、「偶然性の音楽」などでこれまでの音楽の枠組みを解体してみせた。《4分33秒》は特に知られる。また、ピアノの弦にゴム、ボルトなどを挟んで音色を打楽器的なものに変化させる「プリペアド・ピアノ」を考案したことでも知られる。


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