漫画家
今日マチ子

互いに大変な状況のなかにいるからこそ、
世界中の人と共有できるものもある

日常から戦争まで様々なテーマを描き、
時代に応答した作品をつくり続けている漫画家の今日マチ子さん。

コロナ禍にイラストによる「わたしの#stayhome日記」をSNSで発表し話題を呼びました。

今感じていることやこれからの作品づくりについて、お話を聞きました。

聞き手・文 : 山﨑健太

─2020年4月から発表している「わたしの#stayhome日記」は、『Distance』『Essential』の2冊にまとめられていますね。描こうと思ったきっかけを教えてください。

コロナ禍で最初の緊急事態宣言の時の状態を、動揺している自分の気持ちなども含めて「これは絶対に記録に残しておかねばならない」と思って始めました。私は戦争に関する作品を描く時に様々な資料にあたりますが、起きてしまった何か大きな出来事についての資料は残っていても、その後どうなっていったかはあまり記録が残っていないことが多い。コロナ禍について描くなら、どうやって始まり、どうやって終わっていったかをちゃんと記録したいと思いました。例えば百年後の人たちに残せたらという気持ちで続けています。過去の戦争を作品に描く時、それを体験していない自分が戦争を都合よくフィクションに仕立てているのではないかという気持ちはいつもどこかにあります。だからこそ逆に、自分が当事者でいるコロナ禍の状況を作品として残していきたいとも思いました。

―3年間描き続けてきていかがですか?

年を重ねるにつれ、いち市民としての自分の無力さを強く感じるようになりました。特にコロナ禍以降、自分の声は公にはほとんど響かないという諦めのようなものがあったんです。でもSNSで発信した「わたしの#stayhome日記」への反応を見ていると、互いに大変な状況のなかにいるからこそ、世界中の人と共有できるものもある。それを知ることができたのは私にとっては大きな出来事でしたし、そういう小さな連帯の感覚にはすごく救われてもいます。

—今後はどのような作品を構想されていますか?

社会的に立場の弱い人が絶望せずにどうやって生きるかということをずっと考えていて、それと戦争を絡めた作品を描きたいですね。私はけっこう心配性で(笑)10代の頃から、戦争が起きたらどうしようと頭の隅で考えていたんです。そうして今、実際にコロナ禍やロシア・ウクライナ戦争に直面してしまっている。生きていれば予期せぬ災害や戦争に誰しも直面する可能性がある。作品を描くことでそれに備え、心配を和らげているのかもしれません。

今日マチ子『Distanceわたしの#stayhome日記』
(rn press、2021)

今日マチ子(きょう・まちこ)


漫画家。文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に4度選出。
2014年に手塚治虫文化賞新生賞、2015年に日本漫画家協会賞大賞カーツーン部門を受賞。
コロナ禍の日常を絵日記のように描いた『Distance わたしの#stayhome日記』は
2022年1月に『報道ステーション』にて特集で紹介。
近著に『夜の大人、朝の子ども』『Essential わたしの#stayhome日記 2021-2022』。
公式Twitter
公式Instagram

Share this
Key phrase

Latest Feature

声をとどける——言葉・うた・音楽

「声」 は舞台芸術における一つの重要な表現媒体で...
spot_img

Recent articles

関連記事