ダンスワークショップ
「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」

年齢を重ね、老いることは、誰にも等しく訪れます。シニア世代が充実した生活をおくることには、これまで以上に意識が向けられるようになりました。「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」は60歳以上の方たちを対象としたダンスワークショップ。身体について新たな発見をしたり、身体表現を探求していくプロジェクトです。じわじわと参加者の輪が広がるワークショップの現場をレポート。プロジェクトリーダーの安藤洋子さんに、お話を聞きました。

取材・文 : 編集部 写真 : 加藤 甫

「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」とは?

「ともに生きる社会かながわ」の実現を目指す神奈川県。文化芸術の分野でも、年齢や障がいなどにかかわらず、子どもから大人まですべての人が舞台芸術に参加し楽しめる「共生共創事業」に取り組んでいます。

なかでも今回取り上げるのは、世界の第一線で活躍してきたダンサー・安藤洋子さんが、60歳以上のシニアとともにダンス表現を探求するプロジェクト。その名も「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」です。2019年からワークショップをスタートし、2020年度以降は年間を通してワークショップをひらき、年度末に成果発表を行うかたちで活動を継続しています。

安藤さんが一人ひとりの身体に触れながら、筋肉ではなく「骨」を動かそうと意識を促していきます

プロジェクトリーダーの安藤さんは、横浜出身。鬼才の振付家ウィリアム・フォーサイスの下でドイツを拠点に15年間、カンパニーのメインソロダンサーを務めてきました。世界を舞台に活躍してきた安藤さんが、シニアとともにダンスをつくりはじめて、まる4年。参加者の方々とは「出会うべくして出会った」ような感覚があると話します。

コロナ禍での活動を余儀なくされた2020年度は、オンラインレッスンも交えながら、その成果を映像作品として発表。YouTubeで公開しました。60歳以上の方たちが発する、身体の存在感と美しさ――。映像を通して伝わるその力に、多くの方から反響があった作品です。

また2022年度には「ねんりんピックかながわ2022総合開会式」のオープニングアクトに、「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」が出演しています。安藤さんと参加者、そしてスタッフによるチームは、まるで一つのカンパニー。入れ替わりはありながらも、プロジェクトの参加者は増え続けています。

参加者が友人・知人に声をかけ、新たにメンバーが参加するケースも。編集部が取材した2023年5月のワークショップでは「はじめまして」が数名いましたが、「“哲学的”なダンスができると聞いて参加しました」というコメントが印象に残りました。2023年度も初夏から継続してワークショップを重ねています。2024年1月には、「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」初となる公演(会場 : 小田原三の丸ホール)も予定。安藤さんと参加者が立ち上げる新たなダンス表現を、ぜひ目撃してください。

「弓矢を射ってみよう」というワーク。「目に見えないものが身体を通して、ほかの人に見えるようになることが身体表現」だと安藤さん。自分の身体を信じようと伝えます

INTERVIEW

世界的なダンサー・振付家であるウィリアム・フォーサイスから「自分の身体を感じている状態を、そのまま置けばいい」と教わってきた安藤さん。「それを信じて、表現していきたいと思っています」

安藤洋子

振付家・ダンサー/「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」プロジェクトリーダー


─活動を始めて4年になります。60歳以上の皆さんとの創作はいかがですか?

私は人間の先輩として、皆さんのことを尊敬しています。稽古場ではお互いにリスペクトをしていて対等な感じ。それがとても好きですね。歳を重ねると若い人よりは「死」に近いので、例えば生死についても自然に話せる。今を生きるということを、お伝えしやすいんですよ。「自分が何者であるか」を考えつくしてきた方々なので、これから何かになろうという欲もなく。一緒にやっていて楽ちんなんですかね。

ダンスは教えるものではなく、身体で感じるもの。武道では、身体は60歳から実っていくという考え方もあるそうです。そう考えると希望もありますし、だからこそこのプロジェクトでは身体のことを丁寧に、気負わずやっていますね。

―今日のワークショップでも、「身体の声を聞く」ことを大事にされていましたね。

日々、身体は周囲のいろんな変化に対応して、私たちに訴えかけていると思うんです。それに耳を貸してみる。自分自身が誰よりも自分の身体に寄り添うことで、いい循環が生まれるのではないでしょうか。例えば今日は、足の裏のこと。そこに意識を向けると、どんな変化が起こるのか。皆さんがふとした時に転びにくくなる――といったこともあるかもしれません。高齢化社会が進むなか、一人ひとりが好奇心を持ち続け、生きることを楽しめたら。

孝道山本仏殿にて

—持病があっても、プロジェクトに参加してから“痛み”との向き合い方が変わったという参加者もいらっしゃいます。

誰もが「健康でいなければ」と思ってしまうかもしれませんが、そんなことはなくて。自分が居たいように居ればいいんですよ。このプロジェクトではダンスをつくりますが、必ずしも何かを生み出さなければいけないわけではない。今まで気づかなかったことを発見したり、新しい考え方に触れるといった些細なことでも、十分意味があると思うんです。

私自身、老いることへの恐れがあるから、皆さんとやっているのかもしれません。特にダンサーは「元気じゃないと」と思ってしまいがち。だからこそこのプロジェクトに向き合って、豊かな命の循環が見たいですね。


「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」小田原公演決定!

コロナ禍もあり、これまで「公演」というかたちでは発表の機会がなかったプロジェクト。満を持しての公演です。「身内の方だけでなく、まったく知らない人やどんな世代の方が観てもカッコいいと思ってもらえる舞台を目指す」と安藤さん。「このプロジェクトでは、皆さんが立つことで生まれるいい瞬間をたくさん見てきました。録り直しや編集ができる映像作品ではなく、それを舞台の上、お客さんの前で出せるかどうか。そこにチャレンジしたいと思っています」。

2024年1月27日(土) 会場 : 小田原三の丸ホール

公式サイト


Share this
Key phrase

Latest Feature

声をとどける——言葉・うた・音楽

「声」 は舞台芸術における一つの重要な表現媒体で...
spot_img

Recent articles

関連記事