教育の現場から
神奈川大学の社会連携

2023年、95周年を迎えた神奈川大学。港町・横浜の産業につながる「真の実学」教育に力を入れてきた大学です。2021年4月には都市型・未来型の「みなとみらいキャンパス」を新たにオープンし、話題を集めました。また同学では2021年度から、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて、課題解決策などをポスターで表現する「神奈川大学SDGsアワード」を開催しています。2023年4月に新設された情報学部・秋吉政徳教授の研究室を訪問し、これからの未来を担う学生たちの学びを取材しました。

取材・文 : 編集部

社会課題の解決に取り組む神奈川大学

神奈川大学では、産・学・官・民が連携したプロジェクトを積極的に展開しています。その目的は、環境・経済・社会的な課題の解決をはかること。「観光」を柱としたプログラムでは、横浜市港湾局、郵船クルーズ株式会社に向けた魅力発掘プログラムを提案したり、ニューカレドニアの観光局や航空会社と連携したり。社会に直結した実践プログラムの数々に、驚かされます。

これらの外部の連携先との窓口として、学内外をコーディネートしているのが「社会連携センター」です。みなとみらいキャンパス内にオープンした実験工房「ファブラボみなとみらい」の運営も、同センターが担います。ファブラボの学外会員数は220名以上。「周辺企業にお勤めの方やクリエイター、市内の小中高生など様々な方が利用しています。学生との自然な接点も生まれています」と、社会連携センターの市川洋行さんは市民にひらかれたファブラボの手ごたえを語ります。

個人による自由なものづくりの可能性を広げる実験工房「ファブラボ」。個人では所有するのが難しい3Dプリンターやレーザー加工機などのデジタル工作機器が利用できます

神奈川大学SDGsアワード

神奈川大学では在学生を対象に、SDGsに関連した研究・取り組みや、課題解決に役立つアイデア等を募集するポスターコンクール「神奈川大学SDGsアワード」を開催しています。2021年度から始まり、2023年度は3回目の開催を予定しています。

2022年度は、一次選考を通過した10グループが最終選考としてプレゼンテーションを行い、審査により受賞作品を決定しました。このSDGsアワードも行政の後援や、企業・団体などの協賛を得ており、最優秀賞、優秀賞などに続き、横浜銀行賞、京セラ賞といった協賛企業の名前を冠した賞も。同イベントの運営も、社会連携センターが担っています。

2022年度の最優秀賞には、環境や性能面で優れたかやぶき住宅の研究・普及に取り組むチームが選ばれました。若い世代の感性を生かし、課題解決の一歩にしていこうと、様々なアイデアのポスターが見られました。

神奈川県民共済生活協同組合賞を受賞した秋吉研究室「メタバースグループ」のポスター

対談

和気あいあいとした雰囲気の秋吉研究室。先生と学生の距離が近く、学年を超えた交流も盛んなのだとか

情報学部・システム数理学科

秋吉政徳 教授

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研究室学生の皆さん

聞き手・文 : 山﨑健太 写真 : 大野隆介

独居高齢者に生きがいを
人工知能で豊かな未来へ

先端技術はよりよい社会の実現に、どのように寄与するのでしょうか。2022年度の「SDGsアワード」では、人工知能の研究を行う秋吉政徳教授の研究室学生のチーム「メタバースグループ」が、神奈川県民共済生活協同組合賞と、ベストプレゼンテーション賞を受賞しました。

立案したのはメタバースを使って独居高齢者に生きがいをつくり出すプロジェクト。高齢者がメタバース?という疑問が浮かびますが、メタバースへと誘導するために、まずは自宅に置かれたAI搭載のチャットボットとの会話からスタートするのだそう。チャットボットに誘われて参加するメタバースでは、自分の分身となるアバターを通じてほかの参加者と交流することができます。「メタバースだと、相手が自分と同じ場所にいるような感覚で、より身近に感じられるんです」と学生の一人は言います。さらに、会話を盛り上げ交流を促進するため、例えば会話に出てきた思い出の風景を周囲に再現したりもすることができるというのはメタバースならでは。メタバースで共通の趣味をもつ仲間を見つけた時は、もちろん現実世界で交流することもできます。そうしてメタバースと現実とを行き来して交流を深められることは、このプロジェクトの重要なポイントの一つです。メタバースと現実をつなぐことで共感コミュニティーをつくり出すことは、「住み続けられるまちづくり」につながるからです。アワードのプレゼンでは学生が高齢者になりきってメタバース体験の寸劇を披露したとか。

コロナ禍で実施できなかった研究室合宿も、今年から再開するとのこと。期待がふくらむ学生の皆さん

2021年度にもアワードに参加していた秋吉研究室。その時のプロジェクトは災害時の都市における避難シミュレーションに関するものでした。「人工知能というのは、人間に寄り添って生活を豊かにしてくれる、そういうものを目指すべきだと考えています」と秋吉先生は言います。

秋吉研究室では人間の感情や感覚といった右脳的なものを人工知能で扱う研究もしています。人工知能で「ゆるかわ」「ぶさかわ」「きもかわ」を判別する研究もその一つ。担当した学生は「このような感覚的な言葉を人工知能が理解するようになっていくことで、いずれは、例えば孤独のような人の感情にも人工知能は寄り添えるようになるのではないか」と期待を口にしていました。これからの未来を切りひらいていくのは、秋吉研究室の皆さんをはじめ、今学びの舎にいる若者たち。最後に秋吉先生に学生への期待を聞きました。「自分が学生の頃と比べると、世の中の変化のスピードが速くなっているし仕組みも複雑になっています。だから学生に画一的な価値観を押し付けるつもりはないですけど、よりよい社会に、ということは重要だと思っています。特に日本では同調圧力が働き、自分自身の考えを発信することが難しくなっています。学生には、大学での学びや失敗を通して、自分なりの価値観をもって社会に向き合ってほしいですね」。

情報学部・システム数理学科 秋吉政徳教授
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